腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第8回目はカリウム(K)についてです。

①カリウム(K)とは

カリウムは、ナトリウム、カルシウム、リンなどと並んで、細胞の機能維持のために必要不可欠なミネラルの1つです。体内に存在するカリウムのうち、98%は細胞内液(細胞内に存在する液)、2%は細胞外液(細胞の外に存在する液:血液やリンパ液、間質液など)に分布しています。細胞内液に多いカリウムは、神経や筋肉の興奮やその情報を伝達する役割を持っています。また、細胞外液に多いナトリウム(N)と共に、細胞内の浸透圧の維持、細胞の活性維持などを担っています。

ナトリウムポンプ

※ナトリウムポンプ:細胞内のナトリウムを細胞外に出す機構。神経伝達、細胞内のイオン状態の維持などの機能がある。

カリウムはさまざまな食材に含まれているミネラルですが、体内に吸収されたカリウムは一定の濃度を保つために、摂取量の7~9割が尿中に排泄され、残り1~3割は汗や便から排出されます。
腎機能が低下し、カリウムの排泄能力が低下すると、高カリウム血症となり、不整脈を起こしたり、心停止したりする危険があります。透析患者さんもカリウムの制限が重要です。


②カリウムの基準範囲(*1) 基準範囲は施設によって異なる場合があります。

3.6~4.8mmol/L


③腎移植後にカリウムをみる上でのポイント

腎移植により末期腎不全から脱却しても、高カリウム血症の心配をされるレシピエントは多いです。 移植後に高カリウム血症を起こすのは、移植後の内服薬によることがほとんどです。維持免疫抑制薬の一つであるカルシニューリン阻害薬はカリウムを上昇させます。特に移植後3カ月間は、カルシニューリン阻害薬を多く内服します。この3カ月間は、カリウム摂取制限やカリウム降下薬を必要とすることもあります。移植後3カ月を過ぎると、カルシニューリン阻害薬も維持量へ減量されるため、カリウム値は低下してきます。
レニンアンジオテンシン系阻害薬もカリウムを上昇させますので、減量や中止で対応します。ニューモシスティス肺炎に対する予防薬のST合剤も、高カリウム血症を起こすことがありますので、その場合は減量で対応します。
末期腎不全では、多く摂取したカリウムをうまく尿へ排泄することができません。しかし、移植腎機能が問題ないのであれば、摂取したカリウムが多くても、尿への排泄を増加させることで血清カリウム値を一定に保つことができます。そのため、移植後はカリウム制限が必要ないのが通常です。カリウムが少し高くても、あまり心配する必要はありません。

*1 日本臨床検査標準化協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案-解説と利用の手引き-2014年3月31日修正版」