腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第9回目はカルシウム(Ca)、リン(P)、副甲状腺ホルモン(PTH)についてです。

①カルシウム(Ca)、リン(P)、副甲状腺ホルモン(PTH)とは

カルシウムは、骨や歯の主要構成要素の1つで、その99%が骨と歯に存在し、残りの1%は血液中や筋肉などの組織に存在しています。血液中や筋肉に存在するカルシウムは神経伝達や血液の凝固、筋肉の収縮などの重要な役割を担っています。
骨や血液中のカルシウム濃度は、副甲状腺ホルモン(PTH)と活性型ビタミンD、カルシトニン※1というホルモンによって調節されています。

副甲状腺ホルモン(PTH)は、副甲状腺から分泌されるホルモンで、血液中のカルシウム濃度が低下すると分泌され、骨に含まれるカルシウムを血液中へ放出させ、腎臓に作用してリンの再吸収を抑制し、カルシウムの再吸収を促します。

リンはカルシウムとともに骨の主要構成要素で、カルシウムの次に体内に多く存在するミネラルです。その85%はカルシウムやマグネシウムと結合して、リン酸カルシウムやリン酸マグネシウムとなり、骨や歯などを形成しています。残りの15%はタンパク質や脂質、糖などと結合した有機リン酸化合物として、体内の細胞に存在し、核酸や細胞膜の構成要素となっているほか、エネルギー代謝や浸透圧の調整に関与したりしています。

腎機能が低下すると、尿中へのリンの排泄が低下し、血液中のリンの濃度が高くなります。また、活性型ビタミンDの産生が低下して、血液中のカルシウムの濃度が低下します。その結果、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるようになり、二次性副甲状腺機能亢進症※2を引き起こします。

二次性副甲状腺機能亢進症

※1 カルシトニン:甲状腺から分泌されるホルモン。血液中のカルシウム濃度が上昇すると分泌され、カルシウムの骨への沈着を促す。
※2 二次性副甲状腺機能亢進症:副甲状腺以外の病気が原因で、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、血液中のカルシウム濃度が必要以上に高くなる病気。血液中のカルシウム濃度が高くなると、骨がもろくなり骨変形・病的骨折などの原因となる。また、主に関節を中心とした筋肉や肺、皮膚、心臓、血管など、さまざまな場所へカルシウムが沈着し、動脈硬化や心血管疾患などを引き起こす。

②基準範囲(*1) 基準範囲は施設によって異なる場合があります。

■カルシウム
8.8~10.1mg/dL

■リン
2.7~4.6mg/dL

■副甲状腺ホルモン
intact PTH:10~65pg/mL

③腎移植後にカルシウム、リン、副甲状腺ホルモンをみる上でのポイント

腎移植後に高カルシウム血症を起こすことはよくありますが、移植前から存在する続発性副甲状腺機能亢進症が原因となることがほとんどです。
カルシウム、リン、PTHホルモンの値を測定して確認します。
リンは、移植直後から正常以内か正常より低値へ減少して、2カ月までに安定します。リンが1mg/dLを下回ると筋力低下などの症状が出るため、低リン血症治療薬の内服が必要となりますが、一時的な補充で値は正常に戻ってきます。
これに対して、カルシウムは移植後ゆっくり増加して、6カ月までに正常値上限まで上昇して安定するのが一般的です。PTHホルモンが正常値へ減少するのには、さらに時間がかかります。移植後3カ月かけてゆっくり減少し、1年後までに少し上昇して安定します。移植後の時期によって、それぞれの値の動きが異なることがポイントです。
11.5~12mg/dLの高カルシウム血症があっても、骨痛、骨折、腎結石などの症状がなければ、カルシウム値が安定する移植後6カ月くらいまで待つことができます。PTHホルモンが遅れて減少してくれば、カルシウム値は下がるからです。問題となるのは、副甲状腺が大きくなりすぎてしまい、末期腎不全から脱却したにもかかわらず、1年待ってもPTHホルモンが減少しないときです。10年以上の透析歴がある場合や、術前のカルシウム・リンの管理が悪かったレシピエントに多く見られます。高カルシウム血症には、シナカルセットを内服することで対応ができますが、保険適用でないことが問題です。移植後1年待ってもPTHホルモンが高値で高カルシウム血症がある時や、高カルシウム血症に伴う骨痛、骨折、腎結石などがあれば、早めの副甲状腺摘出術を予定します。

*1 日本臨床検査標準化協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案-解説と利用の手引き-2014年3月31日修正版」