腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第11回目はLDL‐コレステロール(LDL-C)、HDL‐コレステロール(HDL-C)についてです。

①LDL‐コレステロール(LDL-C)、HDL‐コレステロール(HDL-C)とは

人の体内には、脂肪酸・中性脂肪・コレステロール・リン脂質の4種類の脂肪が存在します。
脂肪酸は私たちが生きていくために必要なエネルギー源、中性脂肪は貯蔵用のエネルギー源、コレステロールは細胞膜やホルモンの材料、リン脂質は細胞膜の構成成分となっています。
コレステロールには、LDL-コレステロールとHDL-コレステロールがあります。
LDL-コレステロールは悪玉コレステロールと呼ばれ、肝臓で合成されたコレステロールを全身に運ぶ役割を持っています。LDL-コレステロールが多すぎると、血管壁に蓄積して動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを高めます。
HDL-コレステロールとは善玉コレステロールと呼ばれ、血液中の余分なコレステロールを肝臓に運ぶ役割を持っています。HDL-コレステロールが少ないと動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを高めます。

コレステロール

②基準範囲(*1) 基準範囲は施設によって異なる場合があります。

■LDL‐コレステロール
65~163㎎/dL

■HDL‐コレステロール
男性:38~90㎎/dL
女性:48~103㎎/dL


③腎移植後にLDL‐コレステロール(LDL-C)、HDL‐コレステロール(HDL-C)をみる上でのポイント

血糖と中性脂肪が食事の影響を受けやすいのに対して、コレステロールはそれほど影響を受けません。また、今ではほとんどみられませんが、総コレステロールの値によって治療を選択してはいけません。解説にあるように、良い仕事をする善玉コレステロール(HDL-コレステロール)が高値であるレシピエントでは、総コレステロール値は高くなります。悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)が高くなければ治療の必要はありません。
シクロスポリン、エベロリムス、ステロイドによりLDL-コレステロールは上昇します。移植後最初の3カ月間は、これらの免疫抑制薬の投与量が多くなるため、LDL-コレステロールは特に高くなります。免疫抑制薬は移植腎が生着している間は内服が必要ですから、レシピエントのLDL-コレステロールは通常より高めに推移します。シクロスポリンやエベロリムスの濃度が目標値より高いときは、減量することでLDL-コレステロールは下がってきます。
LDL-コレステロールは心血管疾患発症に大きく関与するため、中性脂肪に比べて厳しい管理が必要です。肥満があるレシピエントの減量、有酸素運動は必要ですが、それだけでは目標値に達しないことが多く、そのときには内服を開始します。
本邦の腎移植後のガイドライン(2011年)では、LDL-コレステロール管理目標は、一次予防群で 120mg/dL未満、二次予防群で 100mg/dL未満です。2012年動脈硬化性疾患予防ガイドラインにより、冠動脈疾患の既往がある患者は、二次予防としてLDL-コレステロール 100mg/dL未満へ、カテゴリー3のCKD患者は、一次予防としてLDL-コレステロール 120mg/dL(non HDL-コレステロール150mg/dL)未満へ管理することが望ましいとされています。
一次予防とは、レシピエントのLDL-コレステロール値を120mg/dL未満に管理すると、脳血管障害、心血管障害、末梢血管障害を起こしにくいという意味です。二次予防とは、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患を既に合併しているレシピエントが、冠動脈疾患を再度起こさないLDL-コレステロール値が100mg/dL未満という意味です。最近では、冠動脈疾患合併レシピエントのLDL-コレステロール目標値を70~80mg/dLにするとの考えもあります。
高LDL-コレステロール血症に対する内服治療は、スタチンが第一選択で、エゼチミブは第二選択薬です。この2種類の薬剤で目標値を達成できるレシピエントがほとんどです。

*1 日本臨床検査標準化協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案-解説と利用の手引き-2014年3月31日修正版」