IgA腎症とは
IgA腎症は、おそらく粘膜免疫が原因で血液中にIgA※が増加して、糸球体に沈着することから始まります。主にメサンギウムに沈着するIgAにより、メサンギウム細胞と補体が活性化して腎炎が引き起こされます。
持続的顕微鏡的血尿、持続的蛋白尿、血清IgA高値、血清IgA/C3比高値、上気道炎に伴う肉眼的血尿はIgA腎症を強く疑いますが、確定診断のためには腎生検が必要です。本邦で行われる腎生検の約1/3がIgA腎症と診断されます。
※IgA:免疫グロブリンAの略称。免疫グロブリンは血液中の成分で、病原体などから体を守る免疫システムにおいて重要な役割を担っているタンパク質です。免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があります。IgAは人の腸管、気道などの粘膜に多くあり、細菌やウイルス感染予防に役立っています。
IgA腎症の治療
1990年代以降に、RAS阻害薬※やステロイド療法が今までより積極的に行われるようになり、現在では、本邦の成人期発症IgA腎症の10年腎生存率(透析非導入率)は80~85%、小児期発症例の10年腎生存率は90%以上と考えられています。血圧管理や患者さんによっては扁桃摘出(扁桃腺摘出術)や免疫抑制療法を行いますが、それでも腎不全となってしまったときには、腎代替療法を選択します。
※RAS阻害薬:レニン・アンジオテンシン系阻害薬。血圧を調節するレニン・アンジオテンシン・アルドステロンの体内作用経路を阻害して血圧を下げる薬剤。
腎移植後のIgA腎症再発
腎移植を選択したときには、移植後5年で5.1%、10年で10.1%、15年で15%が原疾患であるIgA腎症を再発(1)すると報告されています。生体腎移植、レシピエントのHLA型(B35、DR4、B8、DR3)、ドナーとレシピエントのHLA適合性がよいこと、ステロイド離脱プロトコール(ステロイド薬の服用中止)、血清IgA高値などが再発のリスクです。ミコフェノール酸モフェチル(MMF)やステロイド使用により、再発率が低くなる可能性はありますが、結論は出ていません。
原疾患がIgA腎症で、移植腎機能が悪化し、泌尿器的な血尿が除外された持続する糸球体性血尿(変形赤血球陽性)や0.5g/日以上の蛋白尿を認めるときには移植腎生検を考慮します。
再発にはRAS阻害薬を使用します。急速に悪化する移植腎機能とRAS阻害薬使用でもネフローゼレベルの蛋白尿(1日3.5g以上の蛋白尿)を認めるときには免疫抑制療法を強化します。メチルプレドニゾロンパルス療法からの漸減が一般的ですが、再発に対する理想的な免疫抑制療法は明らかになっていません。
再発の治療や予防に対するリツキシマブの効果は不明です。移植後の扁桃摘出は再発の治療には効果的な可能性がありますが(2)、移植前の扁桃摘出は再発の予防にはなりません。IgA血管炎でも再発率はIgA腎症とほぼ同じです。
IgA腎症(IgA血管炎)では、現病発症から末期腎不全までの期間が短いときや、移植時の年齢が若年(1)であるときには、臨床的に問題となるような再発腎炎が起きやすいです(3、4)。そのようなことが予想されるときには、いったん透析導入して生体腎移植まで時間を空けることもあります。
参考にした診療ガイドライン;エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2017
1.Allen PJ, Chadban SJ, Craig JC, Lim WH, Allen RDM, Clayton PA, Teixeira-Pinto A, Wong G. Recurrent glomerulonephritis after kidney transplantation: risk factors and allograft outcomes. Kidney Int. 2017;92(2):461-69.
2.Kennoki T, Ishida H, Yamaguchi Y, Tanabe K. Proteinuria-reducing effects of tonsillectomy alone in IgA nephropathy recurring after kidney transplantation. Transplantation. 2009;88(7):935-41.
3.Freese P, Svalander C, Norden G, Nyberg G. Clinical risk factors for recurrence of IgA nephropathy. Clin Transplant. 1999;13(4):313-7.
4.Shimizu A, Higo S, Fujita E, Mii A, Kaneko T. Focal segmental glomerulosclerosis after renal transplantation. Clin Transplant. 2011;25 Suppl 23:6-14.