膜性腎症とは

膜性腎症(MN; Membranous nephropathy)は糸球体基底膜上皮下への免疫複合体(抗原、抗体、補体などからなる複合体)の沈着により生じる疾患です。糸球体足細胞に対する自己抗体が、一次性MNの原因の1つとして考えられています。

膜性腎症

足細胞上にある抗原であるM-typeホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)やthrombospondin type-1 domain-containing 7A(THSD7A)に対する自己抗体が生じると、血中から腎糸球体係蹄基底膜を通過して、足細胞上に発現しているPLA2RおよびTHSD7A に結合し、免疫複合体の形成と補体の活性化を介した足細胞の細胞障害を引き起こします。

MNの予後

症状としては、血尿は軽度で蛋白尿が主です。70%がネフローゼ症候群を呈します。治療なしで蛋白尿が消失する自然寛解の経過をとることが約20~30%にあります。
一次性糸球体疾患(IgA腎症を除く)のうち、本邦ではMNが36.8%です。若年層にはほとんどいませんが、30歳以降に増加し、60歳をピークとして60歳以上の60%近くを占める中高年者の疾患です。
腎生存率(透析非導入率)は10年で90%、15年で80%、20年で60%であり、長期的な予後は必ずしも良好とはいえません。
※ネフローゼ症候群:血液中に含まれる蛋白であるアルブミンが大量に尿中に漏れ、低蛋白血症が引き起こされ、全身にむくみが起こる疾患。

腎移植後のMN再発

腎代替療法として腎移植を選択したときは、移植後5年で10%、10年で16%、15年で18%が再発(1)します。臨床的には問題ありませんが、プロトコール生検(移植後、定期的に行う腎生検)で見つけられた再発は42%です。再発したMNにより5年で59%が腎喪失します(1)
移植腎生検で再発の所見があっても、蛋白尿が1g/日以下で腎機能も安定しているときには免疫抑制薬の変更の必要はなく、RAS阻害薬により蛋白尿と血圧の管理をします。
※RAS阻害薬:レニン・アンジオテンシン系阻害薬。血圧を調節するレニン・アンジオテンシン・アルドステロンの体内作用経路を阻害して血圧を下げる薬剤。

蛋白尿が1g/日以上で腎機能低下も認めるときには、リツキシマブを使用しますが、その効果は緩徐で2~3週間です。蛋白尿減少効果があるときには、CD19陽性B細胞数(CD19はB細胞の発生、活性化、分化の調節に関与する)が、1%以上になったら再投与することもあります。
B型肝炎、自己免疫疾患、甲状腺炎、悪性疾患、薬剤などによる二次性MNでは、現病がコントロールされていれば再発のリスクはありません。腎移植のメリットを十分受けることができます。


参考にした診療ガイドライン;エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2017

1.Allen PJ, Chadban SJ, Craig JC, Lim WH, Allen RDM, Clayton PA, Teixeira-Pinto A, Wong G. Recurrent glomerulonephritis after kidney transplantation: risk factors and allograft outcomes. Kidney Int. 2017;92(2):461-69.