膜性増殖性糸球体腎炎とは

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN; Membranoproliferative glomerulonephritis)は光学顕微鏡所見上、糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状の細胞増殖性病変を呈します。明らかな原因を特定できない一次性MPGNと、感染症(B型肝炎、C型肝炎、慢性感染など)、SLEや他の自己免疫性疾患、単クローン性ガンマグロブリン血症などによる二次性MPGNがあります。

膜性増殖性糸球体腎炎

以前は電子顕微鏡の所見により、MPGNⅠ型(内皮下およびメサンギウム領域に沈着物を認め、二次性MPGNに多い)、Ⅱ型(DDD; dense deposit disease)、Ⅲ型(Ⅰ型の亜型)に分類されていましたが、これらは病理組織学的変化を基準とする診断名です。最近では、補体※1第2経路か、免疫グロブリン※2が関与する病態機序を考えて分類をするのが一般的です。
※1 補体:免疫反応を媒介する血中タンパク質の一群で、主に肝臓で合成されます。異物を認識すると活性化して、病原体の細胞膜などを壊すなどの作用を発揮します。補体の活性化の経路としては、古典経路・レクチン経路・第2経路の3つがあります。
※2 免疫グロブリン:免疫グロブリンは血液中の成分で、病原体などから体を守る免疫システムにおいて重要な役割を担っているタンパク質です。免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があります。

免疫組織学的所見で、免疫グロブリンの沈着や古典的経路の因子(C1q、C4)の沈着を伴わずにC3(補体第3成分) のみの沈着を認める場合をC3 glomerulopathy(C3 腎症)と呼びます。C3腎症のなかには、従来Ⅱ型MPGN に分類されていたDDDが含まれると同時に、従来Ⅰ型やⅢ型に分類されながら、免疫組織学的に免疫グロブリン陰性でC3陽性となるC3 glomerulonephritis(C3腎炎)が含まれます。一部に補体経路の遺伝子異常に伴うものが報告されています。

MPGNの症状

軽度からネフローゼレベルの蛋白尿と糸球体性血尿、高血圧を伴った急性糸球体腎炎、急性腎障害など、臨床像は幅広いです。また、低補体血症を認めることが多いです。
一次性MPGN は8~30 歳代の若年層に限られ、それ以降の発症はほとんどが二次性MPGNです。二次性MPGNは、原病がコントロールされていれば再発のリスクはありません。腎移植のメリットを十分受けることができます。

腎移植後のMPGN再発

MPGNから腎機能が悪化して腎代替療法として腎移植を選択したときは、移植後5年で11.8%、10年で15.6%、15年で18.9%が再発します(1)。再発は献腎移植より生体腎移植で起きやすいです。

原疾患がMPGNで新たな蛋白尿、尿潜血、移植腎機能低下を認めるときには移植腎生検を施行します。また、移植後に発症した二次性MPGNを否定するために、B型肝炎、C型肝炎、細菌感染症、SLE(抗核抗体、2本鎖DNA抗体、C3/C4)や他の自己免疫疾患、単クローン性ガンマグロブリン血症(血清と尿蛋白電気泳動、血清免疫グロブリン遊離L鎖κ/λ比)をチェックして、移植糸球体症を除外するために抗ドナー抗体を測定します。移植腎機能が安定して蛋白尿が3.5g/日未満のときは、蛋白尿1g/日以下を目標としてRAS阻害薬を追加します。蛋白尿3.5g/日以上時には、プレドニゾロンの増量とともに可能であれば代謝拮抗薬も増量します。腎機能が急に悪化するときには、血漿交換とメチルプレドニンパルス療法からのステロイド漸減を追加することもあります。いったん一次性MPGNが再発すると、腎喪失の可能性が大きくなります。MPGNⅠ型再発後10年で14.5%が腎喪失します(2)
※RAS阻害薬:レニン・アンジオテンシン系阻害薬。血圧を調節するレニン・アンジオテンシン・アルドステロンの体内作用経路を阻害して血圧を下げる薬剤。

C3腎症については、C3腎炎の移植後再発は50%以上であり、DDDではさらに高く80~100%と再発率は高いです(3)。再発は移植後1~2年までの起きるのが一般的です。移植腎機能が安定しているときには、移植腎機能が安定して蛋白尿が3.5g/日未満の時は、蛋白尿1g/日以下を目標としてRAS阻害薬を追加します。蛋白尿3.5g/日以上のときには、免疫抑制薬の維持とともに、必要なときには血漿交換、リツキシマブ、エクリズマブを考慮することもあります。腎機能が急に悪化するときには、ミコフェノール酸モフェチルとメチルプレドニンパルス療法からのステロイド漸減を考慮します。血漿交換を追加することもあります。移植後中央値76カ月で、C3腎炎で83%、DDDで86%が再発し、腎喪失はC3腎炎で25%、DDDで86%です(4)
C3腎症やDDDからの生体腎移植を施行するときには、移植前に再発の可能性と予後を十分説明しておく必要があります。


 

参考にした診療ガイドライン;エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2017

1.Allen PJ, Chadban SJ, Craig JC, Lim WH, Allen RDM, Clayton PA, Teixeira-Pinto A, Wong G. Recurrent glomerulonephritis after kidney transplantation: risk factors and allograft outcomes. Kidney Int. 2017;92(2):461-69.
2.Briganti EM, Russ GR, McNeil JJ, Atkins RC, Chadban SJ. Risk of renal allograft loss from recurrent glomerulonephritis. N Engl J Med. 2002;347(2):103-9.
3.Zand L, Lorenz EC, Cosio FG, Fervenza FC, Nasr SH, Gandhi MJ, Smith RJ, Sethi S. Clinical findings, pathology, and outcomes of C3GN after kidney transplantation. J Am Soc Nephrol. 2014;25(5):1110-7.
4.Regunathan-Shenk R, Avasare RS, Ahn W, Canetta PA, Cohen DJ, Appel GB, Bomback AS. Kidney Transplantation in C3 Glomerulopathy: A Case Series. Am J Kidney Dis. 2019;73(3):316-23.