巣状分節性糸球体硬化症とは

巣状分節性糸球体硬化症(FSGS; Focal segmental glomerulosclerosis)は微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS; Minimal change nephrotic syndrome)と同じような発症様式や臨床像をとりながら、しばしがステロイド抵抗性の経過をとり、最終的に末期腎不全にも至り得る難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患です。一次性の他に、二次性(感染、薬剤、家族性/遺伝子変異、肥満、ネフロン喪失から起きる過剰濾過など)があります。
※微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS):ネフローゼ症候群を呈し、腎生検による光学顕微鏡所見ではほぼ正常(微小糸球体病変)で、電子顕微鏡所見で上皮細胞の足突起の消失がみられる疾患。急激な浮腫の出現や体重増加、高度の蛋白尿がみられます。小児のネフローゼ症候群のうち約80%を占めます。ステロイドが有効であり、多くは予後が良好ですが、再発も多いです。

巣状分節性糸球体硬化症

一次性FSGSの原因については、また不明な部分が多いですが、MCNSと同様に、主としてT細胞の機能異常に伴う糸球体上皮細胞障害が主要な機序の1つとして考えられています。一部の一次性FSGS では糸球体濾過障壁の蛋白透過性を亢進させる何らかの液性因子(suPAR;可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体など)、あるいはそれを制御する因子が発症に関与する可能性が指摘されています。
皮質部糸球体と傍髄部糸球体の循環動態の違いなど血行力学的要因も関与するとされています。そのほかに、ある種のウイルス(HIV-1など)、薬剤(インターフェロン、カルシニューリン阻害薬、非ステロイド性抗炎症薬)、悪性腫瘍(リンパ腫)、構造的・機能的適応反応(超低出生体重児、片腎、膀胱尿管逆流性腎症、慢性移植腎拒絶、加齢性変化など)などがFSGS の原因となる可能性があります。本邦では1975~1993年に発症した成人FSGS の腎生存率(透析非導入率)は10年で85.3%、15 年で60.1%、20年で33.5%と報告されており、長期的な腎予後は不良です。

腎移植後のFSGS再発

FSGSから腎機能が悪化して腎代替療法として腎移植を選択したときは、 移植後5年で7.3%、10年で9.0%、15年で11%が再発します(1)。これらは、一次性と二次性FSGSをすべて含んだデータです。suPARなどの糸球体透過性をあげる液性因子と透過性をおさえる液性因子とのバランスにより発症する一次性FSGSでは、再発率は86%と極めて高く(2)、移植後早期に再発します。FSGS発症年齢が小児期、急激に進行するFSGS、グラフトロス(移植腎が機能を失うこと)した移植腎にFSGS再発があったことなどが再発のリスク因子です。
移植前のリツキシマブ投与が、FSGS再発を予防する可能性があります(3)。一方で二次性FSGSは再発する可能性は少ないです。

再発は蛋白尿でスクリーニングします。蛋白尿が1g/日を超えるときには移植腎生検を行いますが、一次性FSGSと二次性FSGSの区別は必ずしも容易ではありません。移植後1年以内に蛋白尿1g/日以上が出現するときには、一次性FSGS再発として治療します。移植後1年以降に蛋白尿が出現するときには、免疫抑制薬をしっかり維持することにとどめることが多いです。

一次性FSGS再発は、移植後発症時期が早く、蛋白尿も多いです。循環血液中の液性因子を除去できる血漿交換が有効なことが多いです。ステロイドパルス療法も併用します。リツキシマブも有効なことがあります。いずれの再発に対してもRAS阻害薬は有効です。
発症から末期腎不全までの期間が短いときや移植時年齢が若年(1)のときには、臨床的に問題となるような再発腎炎が起きやすい(4、5)ため、移植前にきちんと説明しておく必要があります。いったん透析導入して、生体腎移植まで時間を空けることが必要なときもあります。
※RAS阻害薬:レニン・アンジオテンシン系阻害薬。血圧を調節するレニン・アンジオテンシン・アルドステロンの体内作用経路を阻害して血圧を下げる薬剤。


参考にした診療ガイドライン;エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2017

1.Allen PJ, Chadban SJ, Craig JC, Lim WH, Allen RDM, Clayton PA, Teixeira-Pinto A, Wong G. Recurrent glomerulonephritis after kidney transplantation: risk factors and allograft outcomes. Kidney Int. 2017;92(2):461-69.
2.Savin VJ, Sharma R, Sharma M, McCarthy ET, Swan SK, Ellis E, Lovell H, Warady B, Gunwar S, Chonko AM, Artero M, Vincenti F. Circulating factor associated with increased glomerular permeability to albumin in recurrent focal segmental glomerulosclerosis. N Engl J Med. 1996;334(14):878-83.
3.Fornoni A, Sageshima J, Wei C, Merscher-Gomez S, Aguillon-Prada R, Jauregui AN, Li J, Mattiazzi A, Ciancio G, Chen L, Zilleruelo G, Abitbol C, Chandar J, Seeherunvong W, Ricordi C, Ikehata M, Rastaldi MP, Reiser J, Burke GW, 3rd. Rituximab targets podocytes in recurrent focal segmental glomerulosclerosis. Sci Transl Med. 2011;3(85):85ra46.
4.Freese P, Svalander C, Norden G, Nyberg G. Clinical risk factors for recurrence of IgA nephropathy. Clin Transplant. 1999;13(4):313-7.
5.Shimizu A, Higo S, Fujita E, Mii A, Kaneko T. Focal segmental glomerulosclerosis after renal transplantation. Clin Transplant. 2011;25 Suppl 23:6-14.