移植後の運動についてよく聞かれます。私が医師になった約15年前は腎移植後にはボディコンタクトのあるスポーツ(バスケットボール、サッカー、ラグビーなど)は腎損傷のリスクがあるのですべきでないといわれていましたし、今でもそのような指導を行っている施設は多いです。しかし、世界に目を向けるとバスケットボール、サッカー、ラグビーのどの分野でも腎移植後現役復帰した一流のプロスポーツ選手がいます(腎移植を受けて活躍したプロスポーツ選手たち【1】参照)。皆プロテクターをつけてプレーしているようです。もちろん腎損傷のリスクはゼロではありませんので自己責任は伴います。

現在岡山大学で腎移植を受けた患者さんも山登り、サッカー、バドミントンなどかなり本格的にされている方もおられます。プロテクターは近隣の義肢を作る装具屋さんでオーダーメイドで作ってもらうのがいいでしょう。費用はマチマチですが5万円くらいからでしょうか。

今回は私が以前勤めていたアメリカのクリーブランドクリニックでの指導を元に腎移植後の運動についてご説明致します。ただし運動の強度・頻度、注意点は個人差、施設差がありますのでご自身の主治医の先生にご確認ください。クリーブランドクリニックは2012年までに計4000例以上の腎移植を行っている全米有数の腎移植施設です。一般的な基準の一つとして参考にして下さい。


1. 運動する理由

運動することによって以下の効果があります。
□ 心機能の強化
□ 血圧正常化
□ 筋力強化
□ 体脂肪軽減
□ 骨強化
□ ストレス、不安、気分の軽減
□ セルフイメージのアップ
□ 熟睡

2. 運動の種類

以下の3つがあります。
□ ストレッチ
□ 有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、自転車、負担の少ないエアロビクス、水泳(骨への負担が少ないので推奨している施設が多い)など
□ 筋肉強化:筋トレ

3. 運動の頻度

20~30分/日の運動を少なくとも3~4回/週が推奨されます。


4. 一般的な運動のガイドライン

□ 運動は徐々にその程度を上げましょう。
□ 楽しめる運動を選びましょう。楽しめないものは長続きしません。
□ 運動の前にウォーミングアップ(5分)、運動後にクールダウン(5~10分)をおきましょう。クールダウンは徐々に運動の程度を緩めるのが最適です。運動直後に座ったり、立ちどまったり、寝そべるとめまいや動悸を起こすことがあります。
□ 運動を日々のルーチーンワークに入れ、続けましょう。一緒に運動する仲間がいればよりモチベーションが上がります。
□ 運動の記録をつけましょう。

5. 運動時の注意点

□ 服用している薬剤の変更があった場合、担当医師に運動の継続が可能か聞いてください。新しい薬剤は運動への影響を及ぼすことがあります。
□ 重い物を持ち上げる、重いものを押す、また雪かき、土掘り、草刈りなどの家事をすることは避けてください。ものを持ち上げるときは息を吐き出してください。(これは移植腎の過度の圧迫・創ヘルニア予防のためです。あくまで一般的なガイドラインです。)
□ 過酷な環境(冷所、暑所、湿気の多い所)での運動は避けましょう。
□ 運動後に過度に熱い、もしくは冷たいシャワーや浴槽は避けましょう。
□ 体調がすぐれない時は運動は避けましょう。
以下の時は運動を中止して休みましょう。
□ 胸痛
□ 眩暈
□ 首、胸、腕、顎、肩の圧迫や痛み
□ 原因不明の体重増加や浮腫(医師にすぐ相談して下さい)
□ その他不安になるような症状
上記が続いて消失しなければ医師に相談して下さい。

参考:
1. Exercise Guidelines after Kidney Transplant
2. National Kidney Foundation. From Illness to Wellness: Life after Transplantation.
3. The Renal Network, Inc. After Your Kidney Transplant.
4. United Network for Organ Sharing. Diet and Exercise.