感染症を乗り越えて

移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。

河津さん
2カ月位だったと思います。その間は風邪を引かないように手洗い・うがいを徹底し、人混みに行かないようにしました。また、塩分を控えた食事を取り、体重を増やさないように気を付けました。私も主人も、検査を1つ、また1つとパスしていった時はうれしかったですね。

ご主人
術前の検査では、自分にがんなどの病気が見つからないかだけが気がかりでした。万が一病気が見つかったら、そちらを治さなければならなくなり、提供どころではなくなってしまうと思ったので。

上木原先生
私たちから見ても、術前の河津さんは病人という印象は無く、健康的な印象でした。術後は感染症で少し大変でしたが、年齢を考えてもスムーズに進んだ移植だったと思います。

豊田先生

豊田先生
術前は2カ月ほどかけて全身の検査をしますが、検査をパスしても、その患者さんの見た目の元気さは検査結果には出てきませんので、特に高齢の方の場合はその点も注意して見ています。河津さんの場合は、まだ腎不全の症状が出始める前でしたので、体力もあり、良いタイミングで移植ができたと思います。

移植手術を終えた時のことは覚えていますか。

河津さん
麻酔から覚めたときは、ただ痛いという感じでした。傷が痛いというよりも、動けないことが苦しかったです。

ご主人はどうでしたか。

ご主人
痛みは特に無かった気がします。(腎臓を)取られた感じもなかったです(笑)。

娘さん
父は本当に痛みを感じていない様子でしたが、母はしんどそうでした。二人ともお互いのことを心配していました。

手術後の経過はどうでしたか。

河津さん
手術から2週間たった頃、ちょうどあと3日くらいで退院できると思っていたら、尿路感染症になり、それから約3週間、針が刺さるような激しい痛みと、おさまらない尿意が続き、それがとても苦しかったです。朝3時ごろになると痛くなり、お昼頃からはものすごく尿が出る、という繰り返しでした。痛みが始まると、座っても寝てもいられない状態で、「もう死んでしまいたい」と言ったこともありました。その時は娘に厳しく叱られましたね。

娘さん
面会に行くと、母は、「こんなに痛いなら死んだ方がまし」などと言うので、何度も怒りましたね。
今は笑い話ですが、母は病院から借りたポータブルトイレに少し腰をあげるような格好をして、先生が回診に来られた時も、ご飯を食べる時も、ずっと座っていました(笑)。最後は、このままずっと病院に入院させておくわけにもいかないと考え、まだ痛みはありそうでしたが、自宅にもポータブルトイレを買い、家に連れて帰ろうと思ったところ、急に痛みが無くなり治ってしまいました。結局自宅に買ったポータブルトイレは封を開けないままになっています(笑)。

河津さん
先生からは、「絶対治るから、今は強い薬は使えないから、とにかく水をたくさん飲みなさい」と言われて、なんとか頑張っていましたが、退院する日に、本当に急に痛みが無くなりました。その時は思わず、「バンザーイ!」と言いましたね(笑)。先生の言葉を信じて頑張って、本当に良かったです。

先生、術後に尿路感染症が起こることは多いのですか。

豊田先生
尿路感染症は、移植後比較的頻度の高い感染症です。河津さんのようなアデノウイルスによる膀胱炎は周術期に起こることはあまりなく、一般的には術後1カ月以降から起こることが多いです。アデノウイルス膀胱炎では、発熱や血尿のほかに尿意切迫感、排尿時痛、下腹部の痛みがあるので、症状が強い時はとてもきついと思います。細菌性の感染症であれば抗生物質が効きますが、ウイルス性の場合は有効な薬剤がありませんので、安静や水分補給、免疫抑制薬の調整などを行い、良くなるのを待ちます。
※周術期:入院、麻酔、手術、回復といった、患者の術中だけでなく前後の期間を含めた一連の期間のこと。