家族の温かい言葉
移植手術の前にはご夫婦やご家族でどの様なお話をされましたか?
ご主人(ドナー):
私は移植手術の前日に入院したのですが、前日も手術当日も緊張せず、とてもリラックスしていました。手術当日の朝には妻の病室に行って、「おはよう!後で腹の中で会おうな!」などと言っていました(笑)。一方、妻は前日からとても緊張していましたね。
植木さん:
手術前から娘夫婦が病院に来てくれていたのですが、娘からは「お母さん、顔面蒼白になっていたよ」と言われました。私はとても緊張していましたね。
また、手術当日には主人の一番上の兄が来てくれたので、私の方からは「主人から腎臓をもらう事になって申し訳ありません」とお話ししたところ、兄は「腎臓は片方しかなくても大丈夫なのだし、くれるのだから気にしなくていいのだよ」と言ってくれました。
ご主人のご兄弟は腎移植への理解はありましたか?
ご主人(ドナー):
兄弟へは私の方から説明しました。その時の妻の状態と、移植が最適であるということ、そして腎臓を1つ摘出しても腎機能は8割程度残るので、食生活に気を付けていれば問題はないということを話しました。
八木澤先生:
生体腎移植の予定を立てる際に、一番中心に置いて考えるのが腎臓提供者の方の健康です。片方の腎臓を提供しても十分健康に暮らしていけるという保証がなければ提供して頂くわけにはいきません。
植木さん(ご主人)の場合は、B型肝炎ウイルスが今も活動しているのであれば、移植する腎臓と共に奥様の方に移ってしまう危険性がありました。また、高血圧もあり、お薬も飲まれていたので、腎臓提供後の血圧のコントロールも問題が無いかということも確認する必要がありました。
肝臓の方は肝臓内科の先生が診察の上、内服薬の処方で肝炎ウイルスを限りなく0に近づける事ができました。高血圧の方は腎臓内科の先生にお願いして、検査値を内科の立場で評価して頂き、こちらも問題が無いということとなりました。
ご主人(ドナー):
自治医科大学病院は手術後のチェック機能も大変しっかりとされています。手術後の腎臓内科を受診すると、先生から「私は薬を出しませんよ。残された腎臓の機能を出来るだけ長持ちさせることを考えた上での診察をします。」と言われ、色々な数値データの見方を教えて頂きました。
例えば「この数値を見ると今回は蛋白質の取り過ぎですね」とか、「今回は塩分が少な過ぎているから塩分をもっと取りなさい」と体や腎臓に負担をかけないように細かいアドバイスをしてくださいます。そのアドバイスを守る事が、腎機能を維持する方法だと信じて実践しています。
八木澤先生:
移植後、ドナーの方には必ず腎臓内科を受診してもらい、内科医の先生の診察を頂いています。植木さん(ご主人)も半年に1回受診されていると思います。腎臓内科と連携した移植後のフォロー体制が出来ていますので、私達も安心して診療をすることが出来ています。
共に喜び合った瞬間
移植手術を終えた時の心境はどうでしたか?
植木さん:
目が覚めたらICUにいて、先生が声を掛けてくれ、ほっとしたのを覚えています。
手術後2日目には、主人が先生に支えられながら私のところに来てくれて、お互いに「良かったね」と言いました。
ご主人(ドナー):
私も麻酔から覚めたら八木澤先生の声が聞こえてきたので安心し、先生にお礼を言ったのを覚えています。手術後2日目の夕方にはすべての管が抜けましたので、痛みをこらえながら妻のベッドの所に行き、二人で握手をしながら「移植手術の成功」を喜びました。とても感動的でした。
移植をして一番嬉しかったことは何ですか?
植木さん:
生の果物や生野菜を食べられるようになったことや、友達から「顔色がすごく良くなったね」とか「肌がすごく綺麗になったね」と言われることです。化粧の乗りがよくなったのが自分でもよく分かるのがとても嬉しいです。これからも更に肌に磨きをかけようと思っています(笑)。