遠い目標
小児の移植の場合、移植を行うための目標体重、目標身長はだいたいどのぐらいですか。
後藤先生:
絶対的な基準は身長75㎝です。体重の方は最低8kgですが、10kgぐらいあるといいと言われています。
お母様:
真奈は体重が8kgの時に手術を受けました。とりあえず8kgにするまで、我慢して頑張りましたが、それはもう気が遠くなるような数字でした。
こちらの病院に転院したころの体重は覚えていませんが、半年に500g増えるか増えないかという状況でした。下手をすると、入院して環境が変わったために、体重が減ってしまうこともありました。
普通のお子さんであれば8kgになるのはあっという間なのでしょうが、真奈の場合は本当に遠く感じましたね。腎臓の悪い子どもを持つと、きっとどこのお母さんたちも同じなのだろうと思います。
とにかく食べないですし、食べても吐くので、大きくならないのです。
手術可能な基準まで大きくするためには、どのような指導をされるのですか。
後藤先生:
経管栄養で、吐いてしまっても入れます。とてもきついのですが、吐いてしまったとしても一部は残るので、頑張って入れるのです。
お母様:
今でこそ笑って話せますが、当時は、「吐くのに無理やり入れるなんて・・・」と泣けてしまいました。吐いた後に、10分たったらまた少しずつ注入していくのですが、うまく入らないとそのまま戻してしまうのです。それでも入れなくてはと、夜な夜な泣きながらやっていました。当時は今のような笑顔はなく、悲壮感が漂い、だいぶ落ち込んでいましたから、この病院には本当に助けられました。
「吐いても入れてね」とか、「大丈夫だよ、少しぐらいは残っているから」とか、先生が明るくお話ししてくださるので、ちょっとしたことでも相談しやすかったですね。他の病院ではパソコンの画面をじっと見ながら話をして、患者さんの方を全然向いてくれない先生にもお会いしましたが、後藤先生は本当にきちんとこちらを向いて話していただけるので、そういうところもうれしかったです。
移植の情報を求めて
移植のメリットやデメリットなどは、後藤先生からお聞きしたのですか。
お母様:
いろいろな先生からお聞きました。看護師さんたちからも聞きましたね。看護師さんは、例えば、「過去にこういう子がいて、移植後はこんな風になったよ」という、移植後の生活面に関わる話をしてくれました。先生方は、「移植後はこの数値が改善される」というような、検査データに関するお話や、「手術の際に切る場所はここだよ」という外科的なお話をしてくれました。
先生、小児移植の場合にお話しされる内容で、大人の移植とは異なる点はありますか。
後藤先生:
小児の移植の場合、生まれてすぐに移植はできないので、やはり一定期間は腹膜透析をするしかありません。腹膜透析もずっとできるわけではなく、いずれ移植をするしか助かる方法はなくなってしまいます。大人の患者さんは、透析か移植かを選ぶことができますが、子どもは移植しか方法はありません。ですから逆に、目標を決めて、「この段階で移植に移りましょう」というお話をさせていただきます。
看護師さんからはどのようなお話をされるのでしょうか。
太田看護師:
移植後の生活のイメージがつくように、「腹膜透析から解放されるというのは、どういうことなのか」とか「移植をすると何が変わるか」といったお話を移植の前にします。
真奈ちゃんは、腎不全にまつわるいろいろなことがあり、発達もゆっくりでしたから、「腎機能が改善すれば、もう少しいろいろなことがスピードアップすると思いますよ」といったことお伝えしました。
先生とは少し違った視点で、移植後の生活面はどうなるのか、ということをお話しされるのですね。
お母様:
どのような手術が行われるのかという話も、移植後の生活の話も、どちらも聞きたかったので、先生方や看護師さんのおかげで、移植への理解がとても深まりました。「○歳ぐらいでこんな状態だった子どもが、移植後はこうなったよ」というようなリアルな話は非常に励みになり、「何とか目標体重の8kgまで頑張るぞ」とやる気が出ました。
太田看護師:
鈴木さん(お母様)は、真奈ちゃんが入院中、私たち看護師の手を借りることもなく、真奈ちゃんのお世話のほとんど全部を、一人でやっていらっしゃいました。経管栄養も、「私がやっておきます!」という感じでしたね(笑)。腹膜透析の機械を組み立てるのも、「私たちがやりましょうか」と言っても、全部自分で組み立てていらっしゃいました。一見簡単にやっているように見えますが、とても大変だったと思います。
お母様:
実は、こちらの病院に転院する前、腹膜透析の機械を扱うための試験に落ちたことがあるのです。看護師さんたちが受ける、組み立てて接続するまでを人形を使って行う試験なのですが、何度も落ちましたね。「お母さん、駄目だね、明日もう一回やり直しだ」「そんな風にやったら感染しちゃうよ」と言われていました(笑)。
腹膜透析は1年ぐらい頑張ってやりましたが、透析からは本当に早く解放されたかったです。
ドナーはどのように決まったのですか。
お母様:
本当は私が提供しようと思っていたのですが、移植コーディネーターの方とお話ししていた時に、「あなたがドナーになった場合、次の子どもを産もうと思ったら少し大変よ。もし他にもドナー候補がいるのであれば、もう少し考えた方がいいと思う。」と言われました。
真奈が病気だと分かってから、ずっと私の腎臓をあげようと思っていたので、他の人がドナーになることは考えていませんでしたが、たまたま母に電話し、「もしかしたら、子どもは真奈で終わりかな、もう子どもは産まないかもしれない」という話をしたら、「あらやだ、私でもいいじゃない」という話が母から出てきて、「え、そうなの?」と言って、母がドナー候補になってくれることになりました。
真奈ちゃんの御祖母様は、移植のことを知っていたのですか。
お母様:
以前から知っていたようです。真奈が生まれた時から病気だったので、移植のことも気にかけてくれていました。母から、「私がやるわよ」という感じで言ってくれて、本当にありがたかったです。それからドナーの検査をして、問題がないという話になり、トントン拍子に話が進んでいきました。
「そろそろ移植の話をしましょうか」と畔柳先生(腹膜透析を担当していた先生)が言ってくださった時に、「私の母がドナーになってくれる」ということを伝え、本当にうれしくて、「やっと移植できる、この子も少し楽になるかな」と思いながら、泣いて帰ったのを覚えています。
その後、移植までの半年ぐらいの準備期間で、いろいろな検査を行ったと思いますが、移植前の子どもの検査は大人の場合と同じなのでしょうか。
後藤先生:
小児の場合でも、移植前の準備期間は通常、2~3カ月から半年ぐらいです。大人の場合は胃カメラなどの検査もありますが、子どもの場合はありません。
太田看護師:
小児の移植の場合、大人の場合と比べ、検査の数は減りますが、子どもはじっとしていることができないので、薬を飲ませて寝かせて検査するなど、一つ一つの検査に時間がかかります。
お母様:
MRIのような検査は、真奈も駄目でしたね。寝かしつけるのに失敗しようものなら、その日はもう検査ができませんでした(笑)。