多くの先輩に囲まれて
先生、名古屋第二赤十字病院で移植された小児の患者さんは、累計でどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
後藤先生:
全体で70人ちょっとです。一番年上の方は、女性で、今はもう34~5歳になっていて、結婚もして元気にされています。
太田看護師:
小学生の時に腹膜透析導入となり、中学生で移植した子で、今は妊娠中という方がいらっしゃるのですが、すごく感慨深いですね。この歳でもうおばあちゃんの気分になりました。先生には、「おじいちゃんになるね」とみんなで言いましたね(笑)。
お母様:
やはり、そういう普通の生活ができるというのが、もしかしたら一番の幸せなのかもしれませんね。娘が結婚式をあげたら、私、泣いてしまうと思います。すごく涙もろいのです。移植前は本当によく泣いていました。
今は笑顔が絶えなくなりましたね。
お母様:
慣れというのもありますね。初めて真奈が採血をした時、子どもなので、どうしても時間がかかるのですが、娘がずっと泣いているのを10分も20分もドアの前で待っているだけで泣けてきました。今ではすっかり慣れて、「10分かかるだろうから、その間に下に行ってこよう」などと考えていられるようになりました(笑)。戻ってくると看護師さんたちに、「お母さんがいなかったので、娘さんがお部屋で待っていますよ」と言われて、「あれ、今日は早く終わっちゃったんだ」と思ったりしています(笑)。
名古屋第二赤十字病院は、70人の小児の移植をしてきた歴史があります。70人の先輩がいて、その半分ぐらいが女の子で、そのうちの何人かは結婚して子どもを産んでいると聞くと、自信につながるのではないでしょうか。この病院の先生方にお伝えしたいことはありますか。
お母様:
先生方や看護師さんには、時に冗談を挟みながら、分かりやすくいろいろなことを教えていただきました。先ほども言いましたが、小さな悩みやつまらない話、些細なことでも本当によく聞いてくださいました。どんなに有名でも、何を言っているのか分からなかったり、質問しにくい先生もいらっしゃるのですが、この病院ではそんなことがありません。看護師さんたちも非常に話しやすく、私自身、この病院で移植や腎不全について勉強したと言ってもいいくらいです。
私があまりにもいろいろと聞き過ぎて、先生方もうっとうしく思ったかもしれません(笑)。採血の表を見て、「これはどういう意味ですか」と聞き、教えてもらったことをインターネットで調べる、ということをひたすら繰り返しました。「本当によく勉強したなあ」と思うぐらい、この病院でたくさんのことを学びました。
後藤先生:
何でも言ってくれた方がいいのですよ。何を考えているのか分からない人の方が、私たちは困ります。鈴木さん(お母様)のように、どんどん聞いてくれる人の方がいいです。
移植の勉強会などにも行かれたのですか。
お母様:
本当は行くべきなのですが、1回も行っていません。それぐらい、不安のようなものはありませんでした。手術を受けた人の話を聞いて、あれこれ思うこともありませんでしたし、先生と話しただけで、安心感が得られました。
一緒に頑張ろう!
現在、お子さんが腹膜透析を受けているお母さんたちに向けて、何かアドバイスやメッセージはありますか。
お母様:
腹膜透析と経管栄養のつらさに毎日泣いていた時期もありましたが、移植して本当にガラッと変わりました。腹膜透析をしていたころ、食べても吐いて大きくならない娘を見ていると、お先真っ暗な気分になりました。とにかく大きくならなくて、一番の成長期に、なぜか我が子は小さくなっていくのです。半年で500gしか増えず、順調に成長していく他の子どもたちに追いつくどころか、生まれた時よりも小さくなってしまったこともありました。
虐待の疑いをかけられて、児童相談所の職員が来たこともありました。私が19歳の若さで娘を産んだことも、あまり印象が良くなかったようでした。「お子さんをこの場で裸にさせて、体重計に乗せてください」と言われて、「嫌です。なんでうちにだけ来るの?」と言って断りましたが、はっきりと、「虐待の疑いを持っています」と言われたこともありました。「それならそちらで確認したらどうですか」と娘を渡したら、「あざはないですね」と言って、さらっと帰っていきました。私がものすごく怒ったので、向こうも余計いらついたのでしょう。今思えば、あの時はたぶん、怒るのではなくて、泣いてつらそうにすれば良かったのかもしれないですね(笑)。
こんなにお子さんに尽くしていたのに、残念な話ですね。
お母様:
あの時は本当にイライラして、悲しくなりました。大きくならないので周りからは誤解されました。たぶん、どのお母さんもそうだと思いますが、例えば義理のお母さんから誤解され、「なぜそんな弱い子を産んだのか」といったことを言われて悲しい思いをしている方もきっといるでしょう。そう思えば、私の親族は、病気だということを理解してくれる人が多かったので本当にありがたかったです。
今、移植を待っているお母さんには、移植をすると本当にいろいろと変わるので、「一緒に頑張ろうよ!」ということをお伝えしたいです。
お子さんが移植を待っている方へのメッセージ
看護師さんとして、お子さんが腎臓病で苦しんでいるお母さん方へお伝えしたいことはありますか。
太田看護師:
できるだけ周りの人の手を借りて、「お母さん一人で抱えずにいてほしい」と、いつも思います。看護師や医師、家族みんなと少しずつ負担し合えるといいですね。いつか必ず移植できるときは来るので、それを信じて毎日を過ごしてもらいたいです。
鈴木さんはよく、同室になった人とお話ししてくれました。同じように小さくて、まだ移植できない子どものお母さんなどは、そういう会話で救われた人もいると思います。別の病気の子のお母さんでも、患者さんの家族同士で話をしながら、みんなでコミュニケーションを取っていましたね。
お母様:
私は小児科の外来に行くと、若すぎるのか、少し浮いてしまい、話しかけてもらうことがあまりないのですが、入院すると、皆さん、会話に混ぜてくれますね。びっくりするような重い話から始まって、どうでもいい旦那さんの愚痴などを、ワイワイ喋っています。あれが入院の楽しみだというお母さんもいるのかもしれません。移植後は、いろいろと聞かれる側に回ることが増えましたね。
太田看護師:
おしゃべりは大事ですね。そういうちょっとした友人のような知り合いを作っておくといいのかもしれません。同じ気持ちはお母さん同士にしか分かりませんし、私たち看護師では理解できない部分もあると思います。おしゃべりを楽しみにしているお母さんたちは、また別の周りのお母さんたちを救って、助けているのだと思います。
最後に、先生からもメッセージをお願いします。
後藤先生:
お子さんが腹膜透析をしているときは、皆さんそうですが、特にお母さんが大変です。何とか楽にしてあげたいとは思っているのですが、どうにもできない部分なのです。移植すれば楽になるので、今は頑張って耐えてもらいたいと思います。
以前、移植をしたお子さんのお母さんが、インフルエンザにかかったと聞いたので、「お母さん、大変だったね」と言ったら、「何言っているの、子どもが腹膜透析をしていた時の方がつらかったわ」とお話しされていました。それほど、お子さんの腹膜透析というのは大変なのです。
そう思うと、やはり何とかして楽にしてあげたいと思いますし、それが私たちの役目なのですが、すぐにはなかなか難しい。
ですから、「楽になる時期は必ず来ると信じて、頑張ってほしい」ということが、私からお伝えしたいメッセージです。