横浜市立大学附属病院 レシピエントインタビューは、9歳の時に献腎移植を受けられた茅乃ちゃんです。
腹膜透析をされていたころのお話や移植に至るまでの経緯、移植後、明るく元気に学校に通い、運動も楽しんでいる茅乃ちゃんの様子などをお母様からお聞きすることができました。
茅乃ちゃんが移植を受けるまでの経緯
- 8歳(12月30日) 救急外来受診
- 8歳(12月31日) 緊急血液透析
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8歳(1月26日) 腹膜透析導入
- 8歳(5月2日) 腹膜透析再手術
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9歳頃 献腎移植手術
突然の透析導入
病状が出始める前の生活について教えてください。
お母様:
8歳になるまでは入院することもなく、普通の生活を送っていました。ただ、6歳の秋ごろまでは夜尿が毎日続き、小学校に入学して2年間は体調が優れなかったのか、学校を休みがちでした。
一方、入院する半年前に血液検査をした際には何の異常もありませんでした。
どのような経緯で体調が悪化したのでしょうか。
お母様:
お正月まであと数日と迫った年末、娘はお風呂から上がると、1人の兄に向かって、「お兄ちゃんが2人いるよ」と話していたそうです。娘は5人兄弟の末っ子で、初めは皆、娘がふざけているのだと思っていました。翌日、起きてきた娘は、「目が痛い」と言って、片目を閉じたままでした。1日中閉じたままで、夕方になっても閉じていたので、「目を開けてみなさい」と言ったところ、もう目が寄ってしまっていました。更に、顔面麻痺のような状態で、顔が歪みだしており、ろれつも回らなくなっていました。娘が書いていた年賀はがきも、幼稚園に入る前の子のような字になってしまっていました。「これはちょっとおかしい」と思い、近くの病院に電話をして、すぐに娘を連れて行きました。
近くの病院でCTやレントゲンなどの検査をしたところ、「もう、うちの病院では診られません。すぐに転院してください。」と言われ、救急で横浜市立大学附属市民総合医療センターに来ることになりました。
救急外来で診察をしてもらったところ、「透析をしないと危ない」ということになり、すぐにカテーテルでの透析をすることになりました。
寺西先生、いわゆる尿毒症の症状だったのでしょうか。
寺西先生:
そうですね、尿毒症の症状の一つですね。
何の前触れもなく突然、そのような状態になったのですね。
お母様:
症状が出る前日までは全く普通に生活していましたし、近くの病院に連れて行った日も、事前に病院に電話をしたところ、「少しお待ちいただくかもしれません」と言われ、家で夕ご飯を食べさせてから行ったぐらいでしたので、「まさか」という感じでした。
娘の上には4人の兄と姉がいますが、皆健康で、大きな病気もしたことがなかったので、余計に驚きました。
その後、腹膜透析に移行されたのですね。
お母様:
そのまま入院して腹膜透析を開始したのですが、カテーテルの位置がずれたりして、結局退院したのは入院から7カ月後の7月下旬のことでした。
寺西先生:
小児の腹膜透析導入の際の入院は、一般的には1カ月程度ですが、茅乃ちゃんは通常より長くかかりました。
献腎移植希望の登録へ
移植に関しての情報や知識は、いつ、どのようにして知ったのでしょうか。
お母様:
入院してしばらくたったころ、「将来的には移植が必要です」と言われ、小児科の先生方からの勧めで、日本臓器移植ネットワークの説明を受けた時に知りました。
移植に関しての詳しいお話は寺西先生からお聞きしたのですか。
お母様:
腹膜透析のカテーテルの手術も寺西先生に執刀していただいたのですが、入院して2カ月ごろに移植について詳しく話をしていただきました。
日本臓器移植ネットワークに登録してご提供を待つ献腎移植と、家族から提供を受ける生体腎移植があることを教えてもらいました。日本臓器移植ネットワークの説明を受けた時に、「ポイント制で、お子さんの場合は14ポイント加算されます(=大人よりはかなり早く順番が回ってきます)が、待っている人がたくさんいるので、最低3年はお待ちください」という話をお聞きしました。また、生体腎移植についても「検査をして問題が無ければ、両親、兄弟、祖父母からも移植できます。移植を受けた方は、一生免疫抑制剤を飲むことになります。」と説明を受けました。
「献腎移植で3年待ったとしても、頂ける可能性があるのであれば」ということで、日本臓器移植ネットワークに登録をしました。
「最低3年はお待ちください」ということですが、それでも子供の献腎移植の待機期間は大人に比べるとはるかに短いですね。
寺西先生:
大人は平均で14年以上待ちますからね。
寺西先生、移植を検討される方には通常どのような説明をされているのですか。
寺西先生:
移植に関するパンフレットがあるので、まずはそれを読んでいただきます。生体腎移植の場合は、検査に3カ月~半年程度かかりますので、検査のたびに外来で少しずつそのパンフレットを使って説明していきます。移植後に服用する薬も複数ありますし、すぐに完璧に理解するのは難しいので、漆塗りのように移植医療の知識を少しずつ足していってもらっています。
一方、献腎移植の場合は、突然緊急手術になるのと、私自身が臓器を受け取りに行くのもあり、なかなか手術前に説明の時間をとることができないので、パンフレットを読んでおいてもらうだけになってしまうこともあります。それでも成人の献腎移植の場合は待機期間が長いので、1年に1回通院してもらう際にお話をしながら、少しずつ勉強してもらうこともできますが、小児の場合は、待機期間が短いため、移植までに何度もお会いするわけではないので、なかなか完全に理解いただけるところまでいかないこともあります。そのようなところは今後改善していきたいと思っています。
お母様:
日本臓器移植ネットワークに登録して献腎移植の待機期間に入ったのですが、腹膜透析に使用する透析液が、入院中からだんだんと濃いものになっていきました( 腎機能が落ちているサインで、腹膜透析の寿命も短くなる)。このまま移植手術をしないで腹膜透析を続けると、腎機能は悪化し続け命に関わるため、退院説明の時に、「来年の夏までには、(生体腎移植、献腎移植にかかわらず)移植をしないといけないと思っていてください」と言われていました。
一方で、娘は、生体腎移植を受ければ健康な家族の体を傷つけることになるため、「そんなことをするのは嫌だ」と生体腎移植を強く拒否していました。すべて自分が納得しないと嫌な子なので、そこは頑固でした。
寺西先生:
子供の献腎移植の場合、ポイントが付加されることでいくら順番が早くなるといっても、一般的には2~3年の待機期間がありますので、献腎移植だけでなく、生体腎移植も検討していただく必要がありました。