待ち望んだ移植手術
移植の直前、お母様(真奈ちゃんの御祖母様)と何かお話はされましたか。
お母様:
母は、手術室の前で明るく、「じゃあ行ってくるね」と言っていました。
「私が真奈を抱っこしていきたい」と看護婦さんに少しわがままを言って、真奈を抱っこしながら手術室に入っていきました。母は、「絶対に大丈夫」と言い、「手術する部屋は真奈と隣同士ですか」などと聞いていました。楽しんでいるのかと思えるくらいで、全然思い詰めた感じはありませんでした。
手術はどのくらいかかりましたか。
お母様:
朝の9~10時ぐらいに手術室に入って、本人に会えたのは夜の8~9時に近い時刻でした。
先生、子どもの手術の場合は10~12時間ぐらいかかるのですか。
後藤先生:
実際の手術時間はもう少し短いのですが、小児の場合は執刀前に太い血管に点滴を入れるなどの準備が必要なので、全体の時間は長くなりますね。
お母様:
母の方が先に手術室から上がってきたので、まずは母に会いに行きました。家族みんなで、「おなかすいたね」と言いながら、ご飯も食べずに待っていたのですが、いざ母の顔を見たら安心して、「ありがとう」と御礼を言って、「さあご飯に行こうか」と食べに行きましたね(笑)。
母はだいぶうとうとしていたので、麻酔がまだ結構効いていたのだと思います。「痛い?」「結構痛いわ・・・」みたいな会話を軽くした程度で、母はすぐにまた寝てしまいました。
その後、真奈の手術が終わるまでは、夜まで普通にのんびり待っていました。手術終了後、先生からテンコフカテーテル(腹膜透析の管)をもらいました。
後藤先生:
カテーテルを持って帰りたいなんて言う人は珍しいですよ(笑)。
お母様:
あのカテーテルを貰った時は、本当にうれしくて泣きました。今もうちの玄関に飾ってあります。魔除けです(笑)。
これで毎日の腹膜透析から解放されたと思うと、本当にうれしかったです。子どもが初めて、「病気です」と言われた時よりも泣けましたね。「お母さんからもらった腎臓を大切にしなければ」と、強く思い、また頑張ろうと思いました。
生きる気力を取り戻して
移植後、一番うれしかったことは何ですか。
お母様:
とにかく真奈がご飯を食べられるようになったことです。生きる気力が出てきて、元気になりました。だるそうな姿も見なくなり、発育が良くなりました。本当に良かったです。
それと、透析や保存期のときに抱えていた悩みが全部消えました。風邪に気を付けなければというようなことはもちろんありますが、「少し、死から遠ざかった」と感じています。以前は本当に、「この子は生きる気がないのだな」と思っていましたので、そういう悩みは全部解消されたような気がします。
お子さんにお薬を飲ませるのは大変だと思いますが、どのように飲ませているのですか。
お母様:
薬が多く、粉の量も半端なく、液体の薬も嫌がるので、今は経管で確実に飲ませるようにしています。最近は口からもなるべく飲ませようと思い、5種類あったら3種類は口から飲むことに挑戦しているのですが、まだなかなか全部は口から飲めません。でも今はもう吐くことは無くなりました。
薬は1日に2回飲んでいるのですか。
お母様:
朝晩2回です。「薬入れるよ」と言うと、真奈はちゃんと指定の場所に座ってチューブを出して待っています。口で飲みたくないので、「こっちで」と言ってチューブを出して待っているのです(笑)。
それでは駄目なので、「もう口で飲みなさいよ」と言ってスプーンを持っていくという感じです。経管がなくなれば、医療行為というものがだいぶ減りますので、それが次の目標です。
後藤先生:
以前は水分も経管から入れてもらっていましたが、今はもう薬だけですので、薬さえ口から飲めるようになれば経管が外れますね。
小児移植患者さんの場合、どのくらいから自分ひとりで薬を飲ませるのでしょうか。
太田看護師:
小学生ぐらいから本人で飲めるよう関わっていきます。生まれたときから薬を飲んでいるお子さんは5~6歳になると、「飲もうか」と言って1回分を出しておくと、自分で飲めるようになります。
子どもが薬を全部自分で管理できるのは、何歳くらいからですか。
太田看護師:
全部管理できるようになるのは、5年生ぐらいからやり始めてもらいたいです。中学生になったら一通りは自分で管理できるよう支援しています。
そのお子さんごとに、発達状況や生活環境の違いもありますので、全員一概にというわけにはいきませんが、中学校に入るころには自立していってほしいです。
元気に夢に向かって
移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。
お母様:
もう少ししたら、水泳教室や普通の保育園への入園にも挑戦したいと思っていますが、まだ少し怖いですね。「子どもが多い場所は菌が多い」と思うと少し抵抗があります。
今、真奈が通っているのは障害児向けのデイサービスで、体の弱い子どもが通っている少人数の保育園です。家までの送り迎えもやってもらえるところなのですが、そういう保育園は、子どもの体調にも通常以上に気を使ってくれるので、安心です。
先生、小児移植患者さんの場合、どのような点に気を付けて生活しなければならないのでしょうか。
後藤先生:
小児の移植患者さんには、保育園であろうと、小学校、中学校であろうと、普通に通ってもらっています。風邪がうつったとしても、それは仕方がないというか、かかっても意外にそれほど重症にはならないのです。真奈ちゃんの発達や成長にとって、できる限り一般の普通の人たちと交わることは大切なことです。
お母様:
現時点では、真奈はご飯もきちんと食べられるわけではないので、同い年の集団に入れられると、「少し怖いな」とは思います。今の保育園では、ほとんどマンツーマンに近い感じで見てもらっていて、娘だけのんびりとご飯を食べていても許されるので大丈夫ですが、同い年の子にはスピードも全く付いていけないと思います。普通の保育園に行きたいとは思いながらも、まだなかなか難しいですね。
真奈ちゃんには、将来的にはどのようなことをさせたいですか。
お母様:
やりたいことをやらせてあげたいと思います。どんなに勉強が苦手だろうと運動が苦手だろうと、あの子がこれからも、少しでも元気で過ごしてくれることが、何よりの目標であり希望です。