手術が怖くて
その後2012年の秋に、腎臓内科の先生から、「移植を考えておいてください」と言われたとのことですが、高知医療センターでは、腎臓内科と移植外科はどのような連携をされているのですか。
渋谷先生:
基本的には、移植ができそうな方は、腎臓内科から移植外科に紹介されるようになっています。
では、その時に腎臓内科で移植についてのお話があったのですね。
田村さん:
はい。ただ、その時私は、移植手術というものがとても怖かったのです。それまで盲腸の手術すらしたことがありませんでしたので、「移植手術なんて怖いから、透析をすればいいわ」と思っていました。しかも、移植をするとなると、家族の誰かから腎臓をもらわないといけないので、それを家族には言えませんでした。
その後、腎機能がさらに悪化し、透析導入を考えないといけない状況になってきた時に、先生から、「ご主人はどうですか?ご姉妹はいらっしゃいますか?」とさらに具体的にお話がありました。
ご主人は当時、どのように考えていらっしゃったのですか。
ご主人(ドナー):
私は、妻には絶対に透析をさせたくありませんでした。私の小学校の同級生に、生まれつき腎臓の悪い方がいて、食事制限など大変な思いをしているのを見ていましたので、腎不全や透析に関しても以前から気にしており、いろいろと調べていました。ですから、妻の状態が、「もう後戻りできない所まで来ていて、このまま行くと、後は時間の問題だな」と、何となく感じていました。そのため、初めから移植を考えていました。
ご主人は移植については、以前からご存知だったのですか。
ご主人:
腎移植に関しては、いろいろなニュースがありましたので、以前からかなり関心がありました。それと、たまたま娘が「高知県腎バンク協会」に臨時職員で勤めていた時期がありまして、いろいろな情報が事前に入っていたのです。
それでは、娘さんも腎移植についてご存知だったのですね。
娘さん:
はい。本当に偶然ですが、腎バンク協会に臨時職員として3年ほど在籍し、事務方ではありましたが、送られてくる会報を読んだり、移植者の方たちと一緒にボランティアに参加させていただいたりしていたので、移植について何となくは知っていました。
ご主人は、最初からドナーとして自分が手を上げようと思っていたのですか。
ご主人:
はい、そう思っていました。他の家族や子どもからもらうわけにはいかないですしね。
温かい申し出
最初はためらっていた移植手術を受けようと思ったきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。
田村さん:
2013年のお正月に、主人と一緒に海を見に行った時に、「実は、先生に移植を勧められたのだけど、私は透析をするからね」と伝えました。そうしたら主人は、「いや、今度一緒に病院に行くから」と即答してくれたのです。
ご主人は、奥様が移植の話を切り出すのを待っていたのですね。
ご主人:
そうですね。妻が病院から帰ってくるたびに、「クレアチニン値はどうだった?」と聞くと、どんどん悪くなっていくので、「もうそろそろかな」と思っていました。
そのころの体調はいかがでしたか。
田村さん:
毎日本当に疲れていて、「私の体はいったいどうなってしまったの?」と思っていました。むくみもひどく、貧血で階段も上れませんでした。ちょうどそのころ、長男の結婚式を控えていたので、新婚旅行として長男夫婦を連れて、家族5人でアメリカに行ったのですが、その時も全然動けませんでした。
娘さんから見て、当時のお母様の様子はどうでしたか。
娘さん:
本当はしんどかったのだと思いますが、母はつらいという感情を表に出さないので、あまり分かりませんでした。
その後、渋谷先生にお会いした時には、どのような話がありましたか。
田村さん:
基本的な移植手術の説明をお聞きしました。ただ、私はもうとにかく怖かったので、話はあまり聞いていませんでしたね(笑)。インターネットの情報なども一切見ませんでした。おなかを切られることも怖かったですし、「他人の臓器が自分の中に入るというのは、どんな感じなのだろう?」と思っていましたから。そんな感じでしたので、私からは質問もしませんでした。「はい、はい」と聞いていただけです。
ご主人は、先生のお話を聞いてどうでしたか。
ご主人:
渋谷先生に会う前から、「移植しかないな」と思っていましたから、あとは確認事項を聞くだけでしたね。
先生、最初の移植外来の際には一般的にはどのようなお話をされるのですか。
渋谷先生:
最初の外来の際には、移植のメリットとデメリットをお話しします。
それと、「移植は献腎移植、つまり亡くなった方からもらうのが本来の姿ですが、日本は臓器提供が少なく、十数年待たないと順番が回ってこないため、もし提供してくれる方がいらっしゃるのであれば、生体腎移植をしましょう」という話をしています。あとは、移植後の拒絶反応や感染症のことなどをお話しします。全体で1時間くらいかけています。
移植手術を受けるに際し、ご主人とはどのようなお話しをされましたか。
田村さん:
いつも通り会話はよくしていましたが、私が手術を怖がっていたこともあって、敢えて手術の話題には触れませんでした。
娘さんは、ご両親が移植手術をするということに対しての不安はありませんでしたか。
娘さん:
不安は無かったですね。漠然と、「うまくいくだろう」と思っていました。うまく言えないのですが、ずっと同じ屋根の下で暮らしていて、父も母もお互いが心のどこかで相手を尊敬しているというのはよく分かっていましたので、「二人の相性の良さで手術もうまくいくのではないかな」と思っていました。
移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。またその期間の生活で特に気を付けていたことがあれば教えてください。
田村さん:
手術が決まってから実際の手術までの期間は3~4カ月でした。手術の約1カ月前から免疫抑制剤を服用しましたので、病気にかからないように注意しました。