明るく楽しいダイエット
移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。
田村さん:
1人でも多くの方に健康の大切さを分かってほしいため、ダイエット講座などを開いています。あとは、主人と一緒に世界一周旅行をしたいですね。
ダイエット講座は、どのように開催していらっしゃるのですか。
田村さん:
講座は娘と一緒に近所で開いたり、町から依頼を受けて開催したりしています。「この写真、見てください」というふうに、自分自身のビフォーアフターを見せながらやります(笑)。
ダイエットに大切なのは、やはり運動と食事です。運動に関しては、単に体重を落とすだけではなく、しっかりと筋肉を付けて、代謝を上げる必要があるということをお伝えしています。また、食事に関しては、皆さん、「そんなに食べていません」とおっしゃるのですが、私たちの講座で、「3日分の食事すべてを写真に撮ってきてください」とお願いして写真を確認してみると、やはり結構食べているのですね。その写真から改善すべき点をアドバイスしています。
運動は、どのようなものをお勧めしているのですか。
田村さん:
器具を使わなくても家で簡単にできる、自重筋トレ(自分の体重を負荷にして行うもの)などを紹介しています。やはり筋肉を付けることが大事ですね。また、ステップ台を使って、登ったり降りたりするなどの、有酸素運動も紹介しています。
食事に関してはどのようなアドバイスをしていらっしゃるのですか。
田村さん:
食事は適正な量と質が大切です。カロリーさえ減らせばいいということではありません。カロリー計算だけに終始したら、「朝昼晩、おにぎりを2個ずつ食べたらいいですね」ということになりますが、野菜もしっかり取らないと、脂肪は燃焼してくれません。
とても勉強になりますね。
河野コーディネーター:
そうですね。田村さんには、今度、移植者向けのダイエット講座で話をしていただくことになっています。移植経験者からのお話ですと、他の移植者の方も、「自分でもできる」と思っていただけると思いますので、とても楽しみにしています。
田村さん:
「自分でもできる」という観点でお話しすると、運動でも、100円均一のお店で売っている小さいボールを膝の間にギューっと挟んでおくだけで、大腿筋が鍛えられるのです。ですから、ダイエット講座でも、「ご飯を食べながら、ずっとこれを挟んでおいてね」というように、すぐにできる運動を、面白おかしくお話ししています。
田村さんのダイエットは、お金をかけずに、ずっと続けられそうなところがいいですね。
田村さん:
私たちの基本的な考え方は、「ダイエットは一生しなくてはならないもの」なのです。ダイエットというのは、痩せることではなくて、健康管理なのですね。ですから、「一生続けられるものをやっていきましょう」とお伝えしています。
先生、最近は、移植後太ってしまい、なかなか痩せられない患者さんも増えていますよね。
渋谷先生:
そうですね。中には術前から太っている人もいらっしゃいます。移植手術を行う際には、生体腎ドナーの方も、太っている場合には痩せていただかなければいけません。移植手術の適応は、一応BMI※ 25以下を目標ということにはしていますが、なかなか厳しいですね。そのため、25プラス5くらいまでは対応するようにしていますが、本当は移植前も移植後もBMI 25以下を維持してほしいと思います。
※ BMI(Body Mass Index):身長と体重の関係から計算した大人向けの肥満度を表す指数。
BMI(kg/㎡)=体重(kg)÷身長(m)²
例)男性で身長170㎝の場合、体重72kgでBMI 24.9 / 女性で身長155㎝の場合、体重59kgでBMI 24.6となる。
感謝とメッセージ
渋谷先生にお伝えしたいことはありますか。
田村さん:
ありきたりの言葉ですが、渋谷先生は、「命の恩人」です。最初は、「この先生、怖い…」と思ったのですけれどね(笑)。移植手術自体を怖いと思っていたので、その影響もあったと思います。でも実際はとても優しい先生で、お話も分かりやすく丁寧で、毎月先生にお会いするのがとても楽しみです。
ドナーであるご主人への思いを教えてください。
田村さん:
移植によって、赤の他人が、他人ではなくなりました。照れくさくて素直に言葉に出すことは少ないのですが、世界一優しくて思いやりのある人です。主人と家庭を築き、家族をつくれたことに、心から感謝をしています。
ご主人から、今後ドナーになられる方にお伝えしたいことありますか。
ご主人:
私の場合、ドナーになることや臓器提供するということよりも、「夫婦でこれからの人生をどのように生きていきたいか」ということしか考えていませんでした。ですから、逆に言うと、ドナーになるしか選択肢がありませんでしたね。人はいずれ死ぬわけですから、万が一、多少人生が短くなったとしても、その間、家族と一緒に密度の濃い人生を送れたらいいのではないかと思います。
現在、移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージをお願いします。
田村さん:
もし、ドナーとなっていただける方がいらっしゃるのであれば、絶対に移植をお勧めします。毎日輝いて生活できます。新しい自分に生まれ変わったように、今まで思いもつかなかったことにチャレンジしたり、前向きになることができます。もし私が透析を選んでいたら、家族みんなが暗くなっていたと思います。今では、娘は私のことを他人に紹介するとき、「腎臓を3つ持つ母です」と笑顔で話しています。
娘さん:
母の紹介の後に父を紹介するときは、「腎臓が1つの父です」と言うのですよ(笑)。そうすると、皆さんがパッとこちらを見て、父も母もすごく元気だということを納得してくれるのですよね。
田村さん:
そういうことも、冗談で言えるようになったということですね。あとは、「高知移植者友の会」にも入会し、今年度からはお世話係もさせていただきます。
「高知移植者友の会」では、どのようなことをされる予定なのですか。
田村さん:
私は移植前に、移植者の方とお話をする機会がなかったので、そのような機会があれば、移植前の不安が少なくなるのではないかと思い、そういう場作りをしていきたいと思っています。移植が怖くて震えているような方も、少し話せば変わると思います。私も今であれば、「全然怖くないので手術をしてください」と言うと思います(笑)。移植前は、手術はおなかを切るので、ずっと傷口が痛むと思っていましたが、実際には全然痛くなかったのですよ。
ご主人:
私も、おなかを切ったわりには、痛くありませんでしたね。
渋谷先生:
麻酔科の先生が、上手に痛みが無いようにしてくださったのですね。最近は、TAP(腹横筋膜面)ブロックといって、筋膜の間に局所麻酔剤を注射してその辺りの痛みを取るような、局所神経ブロックが行われています。以前は、硬膜外麻酔は出血の危険性などがありましたので、行っていませんでした。TAPブロックを行うことで、痛みがだいぶ減っているかもしれませんね。
医療技術の進歩ですね。そのようなことを知るだけで、手術への不安が随分和らぎますね。最後に、河野コーディネーターと先生から、メッセージをいただけますか。
河野コーディネーター:
田村さんのように、移植手術に怯えながら、初めて病院を訪れる方に対して、私たちはどのように情報提供を行えばいいのかということを日々思案しています。やはり移植手術を受けるためには、いろいろな情報を知った上で決めていただかなければなりません。その際、私たち医療関係者からの説明だけでなく、田村さんのような移植経験者の方に、移植前の気持ちから移植後の現在までのお話をしていただくのが、一番だと思います。今後、患者さん同士が話せる場を作れるようにしていきたいと考えています。
渋谷先生:
これまでにも移植前に、移植経験者の方との面談を希望される方はいらっしゃいましたので、患者会を通じてお話をしていただく場を作っていました。しかし、全員にそのようなご案内はできていませんでしたので、今後は、そのような患者さん同士が交流できる場を定期的に作っていきたいと考えています。移植をご検討されている方は、是非一度病院に足を運んでいただき、ご相談いただければと思っています。