家族の絆
移植後、お母様に対して、何かしていますか。
楓さん:
特別なことはしていないですが、母の誕生日に、家族みんなでご飯を食べに行きました。
今後は、家族みんなでプリクラを撮りたいです!母は写真を撮られるのが好きではないようなのですが。
移植して一番良かったことはどのようなことですか。
楓さん:
移植前は、母との会話はあまりなく、家に帰らなかったこともあったのですが、移植後は、家で私がご飯を作ったり、母と一緒に映画を観に行ったり、外で食事をしたり、買い物をしたりと、母と過ごす時間が多くなりました。移植を通じて、家族の絆がとても深まりました。
お母様(ドナー):
楓は、ご飯を作る以外にも、お皿を洗ってくれたり、洗濯してくれたりと、何かしら手伝ってくれるようになりましたね。
ご家族の変化もありましたか。
楓さん:
私には妹と弟がいるのですが、妹は私が腎移植手術を受けたことをきっかけに看護師を目指すようになり、現在大学の看護学科に在籍中です。また弟は臨床工学技士を目指して、来春から大学の医療福祉工学科に進学予定です。
移植後の日常生活では、移植腎のために特にどのようなことに気を付けて生活をしていますか。
楓さん:
基本的なことですが、グレープフルーツを食べないようにすることや、塩分を控えることなどには気を付けています。また、喉が渇く前にこまめに水分を取るようにして、1日1.5~2Lは飲むようにしています。
服薬に関しては、朝晩飲む薬をケースに4日分入れて常に持ち歩いています。薬ケースは友だちに薬が入っていると分からないように、綺麗なケースを自分で作りました。また、学校のロッカーにも予備を1週間分置いています。家でも飲み忘れを防ぐために、ご飯を食べるテーブルの上に毎日置いています。
薬は外来の前日に全部持って帰ってきて、数えて袋に入れ、病院で飲み忘れがないかの残数チェックをしてもらっています。
こちらの病院では移植後の指導はどのように行っているのですか。
平野先生:
当院ではレシピエント移植コーディネーターが特にしっかりと指導していますね。
移植後の外来では、検査後、医師の診察があり、その後コーディネーターと話す時間を取っています。薬の残数のチェックや、自宅での血圧測定記録の確認、しっかり水を飲んでいるかなどの確認をしています。
楓さん:
コーディネーターの方がしっかり管理してくださるので、とてもありがたいです。
今後の目標とメッセージ
移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。
楓さん:
腎移植手術を経験して、「次は自分が誰かのために役に立ちたい」と思うようになりました。
移植前は誰も想像していなかったと思いますが、今、看護学校に通っています。私のように病気をもっているからこそ、患者さんと分かち合えることがあるのではないかと思っています。
看護師になりたいと思うようになった一番のきっかけは、移植前からお世話になっている、レシピエント移植コーディネーターの看護師さんとの出会いです。すごく大好きで、私の憧れの存在です。私も将来は移植コーディネーターになりたいと思っています。
お母様は楓さんが看護師を目指すようになると想像していましたか。
お母様(ドナー):
全くしていませんでした。フリーターにでもなるのかなと思っていたので(笑)、看護学校に受かった時には、「ほんまに受かったん?」と何度も聞いてしまいましたね(笑)。
楓さん:
合格した時には自分でもびっくりしました(笑)。
平野先生:
楓さんが看護学校に合格したと聞いた時は、私も本当にうれしかったですね。外来に来るたびに、「勉強しろ、勉強しろ」と言っていましたから(笑)。
介護の仕事のアルバイトをしながら予備校に8カ月行って、本当に頑張りましたね。将来はこの病院で働いて、憧れの移植コーディネーターの後を継いでくれたらいいなと思っています。
主治医への思いを教えてください。
楓さん:
心から感謝しています。
以前の私は自分の体のこともきちんと分かっていなかったので、先生に初めて会った時に、分かりやすく、今後の治療について話をしていただいたことが印象的でした。
先生は患者さん想いで優しいので、何でも話せるし、安心感があります。また、外来に行くと、いつも必ずしっかりと目を合わせてあいさつしてくださいます。この病院で憧れの看護師さんにも出会えたので、本当に感謝しています。
お母様への思いを教えてください。
楓さん:
感謝しかありません。
初めは、腎臓をもらうのが本当に申し訳なかったです。私が腎臓を1つもらってしまったら、その後の母の体がどうなってしまうのかと、とても心配でした。
今、こうして学校に通えて、順調に過ごせていることに感謝し、これからは自分だけの体ではないということを頭に置いて、たくさん恩返しをしていきたいですし、母の体を労わって、2人とも健康で過ごしたいと思っています。
現在、移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージをお願いします。
楓さん:
私は、透析を4日ほどしか受けていませんが、もし移植ができる状況であれば、移植をお勧めしたいです。手術を受けるには大きな決断が必要になると思いますが、それを乗り越えた後、得るものがたくさんあると思います。私は術後、「普通のことが普通にできるようになった」と素直に思いました。
術前から入院中、術後にかけて、担当の先生や移植コーディネーターの方たちが、万全のサポートをしてくれます。不安や悩みが多々あると思いますが、先生や移植コーディネーターの方に納得がいくまで話を聞くといいと思います。
私はこの病院で移植を受けることができて、本当に良かったと思っています。関わってくださる先生や看護師さんが皆さん話しやすくて、いろいろ質問もでき、信頼できるからです。ぜひ信頼できる病院、先生を探して、まずは話を聞いてほしいと思います。
平野先生からもメッセージを頂けますか。
平野先生:
移植前はスウェットで外来に来ていた男性の患者さんが、移植後はスーツ姿で外来に来てくれたり、移植前は全く化粧っ気がなかった女性の患者さんが、移植後、きれいにお化粧をして外来に来てくれたりすると、移植を受けたことによって、積極的に社会活動ができるようになったのだと感じ、本当に良かったと思います。
特に若い方の場合は、もし移植ができる環境があるようでしたら、移植を受け、勉強して働いて、どんどん社会に還元していってほしいと思っています。特に、若い女性にとっては、妊娠が可能になるため積極的にお勧めしたいと考えています。
当院では、移植前から移植後にかけてしっかりと患者さんを診療できる体制が整っていますので、まずは相談に来ていただき、すべての治療法をよく理解した上で、ご自身にとって一番いい治療選択をしていただきたいと思います。