弟からの大切な命の贈り物

その後2度目の移植手術を受けられたわけですが、弟さんはどの様な経緯でドナーになってくれたのですか?

中井さん:
弟は12歳年下なのですが、私が色々な場面で可愛がって面倒をみていた事があったからなのか、1回目の移植の際も「血液型が同じであれば自分がドナーになるのに」という話をしてくれていました。
私が父親の何回忌かで実家へ帰った時に(その時私の病状は悪化していたのですが)、私の足の腫れや、歩き方がおかしいのに気が付いていたようです。
そして、1回目の移植で母親がドナーになった姿を見ていた為、ドナーになる事への不安感が少なかったのと、先生から「血液型が違っても移植が可能だ」という説明を受け、ドナーになる事を申し出てくれました。

1回目の手術と2回目の手術で異なる点はありましたか?

中井さん:
私と弟では血液型が違うので、移植手術前に私の脾臓を取る手術を行いました。

打田先生:
現在はリツキシマブという薬を使っていますので、脾臓摘出は行っていません。中井さんの手術後、治療法が変わったと思います。

移植手術の際、血液型が違っても問題は無いのでしょうか?

打田先生:
名古屋第二赤十字病院では、生体腎移植手術の3分の1が血液型不適合腎移植です。
最近は夫婦間生体腎移植が増えていますので、当然血液型不適合の割合が増えてきています。血液型不適合の場合も、移植後の成績は変わりません。

弟さんにはどの様な話をされましたか?

中井さん:
当時弟は30歳台前半で、ちょうど弟の子供もまだ5歳くらいでしたので、「本当にいいのか?」という事を何度も聞きました。手術が迫ってくると更にその気持ちが強くなりました。

2回目の移植手術を終えられた時の気持ちはどのようなものでしたか?

中井さん:
再度透析から解放された事が嬉しかったです。弟には本当に感謝しています。
弟に対する責任もありますし、2度目の透析導入になる前から患者会の代表もやっておりましたので、皆さんの模範となれるように、移植してもらった腎臓が長く生着するよう、生活も正していこうと思いました。喫煙も2回目の移植後には止めました。

支えてくれた人への感謝

ドナーへの想いを教えてください。

中井さん:
まず、本当に感謝の気持ちです。ただ、母親に対しては、「せっかく提供してもらった腎臓を10年しかもたせる事が出来なかった」という何とも言えないものがあります。また弟に対しては、「よく決心してくれたな」いう感謝と、「今度こそ長く生着させないといけないな」という思いがあります。

担当医への想いを教えてください。

中井さん:
先生には、移植前の診察、検査入院、移植手術、外来とお世話になり、現在の患者会でもいろいろと助けて頂いていますので、本当にありがたく思っています。

これから移植を受ける方へ

移植をして一番良かったことはどんなことですか?

中井さん:
仕事においては、フルタイムの勤務に戻れたことと、透析から解放されたことで時間が使えるようになったことです。先月9月に行われた移植者スポーツ大会にも参加し、3キロウォークにも出場しました。
また、患者会の活動を通じて、仕事とは別の交流の場も出来ました。今後も患者会の活動を頑張っていきたいと思っています。

患者会ではどの様な活動をされているのですか?

中井さん:
私が会長を務めさせて頂いているのは、名古屋第二赤十字病院 移植外科の患者会「朋友会」で、毎月1回、「腎移植レシピエントの広場」を開催し、移植を控えた患者さんや、移植後間もない入院患者さんの疑問や不安に、移植経験者が自らの体験をお話ししています。オブザーバーとして移植外科の先生方やレシピエントコーディネーターにも参加頂き、コメントを頂いています。
また、今月11月12日(土)には、女性の為の移植勉強会を実施する予定です。内容としては、女性レシピエントのための基礎知識や、慢性腎不全・腎移植後患者と産婦人科疾患(生理・妊娠・癌)について先生方からお話を頂き、質疑応答を行う内容となっています。
患者会の女性の方、名古屋第二赤十字病院で移植をされた女性の方、他病院で移植をされた女性の方であれば参加可能ですので、ご興味があれば是非ご連絡を頂きたく思っています。

これから移植を受けられる方、受けようと思っている方へのメッセージをお願いします。

中井さん:
移植に関しては、様々な情報があると思います。透析施設にいれば、移植を経験し透析に戻った方が「移植は良くない」と言っているかもしれません。「自分は透析治療でいい」というのは1つの選択肢、権利だと思いますが、まずは先入観を持たずに自分から情報があるところに求めて行き、話を聞いて判断する材料を得てほしいと思います。一方的な話ではなく、いい話も悪い話も聞き、判断してほしいと思います。
また、「移植手術を受けよう」という気持ちになられたのであれば、移植手術の経験豊富な病院を選んでほしいと思います。

今後の移植医療に期待する事はありますか。

中井さん:
臓器提供への理解が進み移植そのものが増えること。また、再生医療の分野も進んで欲しいと思います。

最後に打田先生にお聞きしたい事はありますか?

中井さん:
日本の移植医療は今後どの様に発展していくのかをお聞きしたいです。

打田先生:
将来的な希望としては、免疫抑制剤が必要の無い移植、人工臓器等など、夢の話は色々ありますが、現実的に手の届くところのお話をすると、まずは日本の移植医療を欧米と同じレベルまで普及させたいと思っています。
欧米では20歳以下の腎不全の患者さんの4分の3が腎移植、4分の1が透析です。20~40歳だと大体半々の割合です。日本では移植は全腎不全患者さんの1割もない状況です。同じ先進国でありながら、移植医療の普及は欧米に比べて非常に遅れているのです。
日々自分達が移植医療に携わっていて、こんなにいい医療は無いと実感していますし、受けた患者さんもそう思っています。もちろん一般の方にも移植への理解を深めて頂く事も大事ですが、同じ医療スタッフ(医者、看護師、コメディカル)の方々に腎不全医療、移植への理解をより深めてもらえるようにやっていきたいと思っています。
腎移植手術の生着率は10年で9割を超えており、名古屋第二赤十字病院の成績では、20年でも5割を超えています。こんないい治療を皆さんに、特に医療関係者に知って頂きたいと思います。
また、移植を受けた患者さん自身が声を大にして、こんなに良かったという話をしてほしいと思います。最近は、手術が上手くいかなかったという話もほとんど聞きません。

中井さん:
確かに私の1回目の移植の時と、2回目の移植の時とでは、取り巻く環境、雰囲気が随分変ったと思います。

打田先生:
日本全体で言えば、新しい免疫抑制剤が出た事により、移植の成績は2000年を境にガラっと変わりまし た。2000年以降、移植の成績が非常に良くなっています。
先日、70歳代前半のご夫婦が夫婦間生体腎移植を希望され、診察にいらっしゃいました。その年齢で移植が出来るのか?と思われるかもしれないですが、これまでも70歳代のご夫婦の夫婦間生体腎移植手術は何例も行っておりますし、私の施設で移植手術を行った患者さんの最高齢は78歳の方(ドナーは60歳過ぎの娘さん)でしたので、移植手術はもちろん可能です。
ご夫婦が夫婦間生体腎移植を希望されたのは、「ただ、平均寿命まで透析には入らずに普通の生活がしたいという希望を叶えたい」という理由だけでした。今後、レシピエント、ドナー共に年齢も更に上がっていくと思われます。移植腎生着率を高め成績をよくしていく事は大事ですが、一方で、その患者さん、その患者さんの年齢に合った希望を叶えてあげる移植医療が必要になってくるのだと思います。
ただ長く生きるというのではなく、移植によって、どれだけご本人にとって質の高い、満足のいく毎日を過ごせるようにしてあげられるのか、残りの人生をどれだけ楽しく過ごせるようにしてあげられるのか、という事が非常に大事になってくると思うのです。