名古屋第二赤十字病院レシピエントインタビュー 第二弾 第1回目は、数年前に膵腎同時移植を受けられた、加藤みゆきさんと、畔柳泰之さんです。
お二人とも1型糖尿病を発症後、合併症などの大変厳しい状況を乗り越え、移植手術を受けられました。それぞれの移植を受けるまでのお話や、移植後、大変充実した毎日を過ごしていらっしゃる現在の様子をお聞きすることができました。

加藤さんが移植を受けるまでの経緯

  • 10歳(2月) 風邪をこじらせ高熱を出す
  • 10歳(4月) 1型糖尿病と診断される
  • 25歳 妊娠により腎機能低下 慢性腎不全と診断される
  • 30歳 血液透析導入
  • 30歳 膵腎同時移植希望登録
  • 30代後半 膵腎同時移植手術

畔柳さんが移植を受けるまでの経緯

  • 22歳 喉の渇き、体重減少などの症状が出る 1型糖尿病と診断される
  • 36歳 慢性腎不全と診断される
  • 37歳 血液透析導入
  • 38歳 膵腎同時移植希望登録
  • 40代前半 膵腎同時移植手術

1型糖尿病の発症

1型糖尿病の症状が出始めたころの状況について教えてください。

加藤さん
小学校中学年まではとても健康で、まわりの皆と同じように元気に過ごしていましたが、10歳で風邪をこじらせ高熱を出してからは、微熱、だるさ、喉の渇きなどの症状が出てきて、体が痩せ始めました。当時私はまだ子どもでしたので、自分自身の体調の悪さにあまり気付いていませんでした。
5年生になってすぐのころ、仕事が忙しくてずっと顔を合わせていなかった父が、久しぶりに私を見て何かおかしいと思ったらしく、母に「大きな病院に連れて行け」と言ったため、総合病院で診察を受けました。するといきなり、「1型糖尿病です。今すぐ入院してください。」と言われ、そのまま家にも帰らず入院することになりました。
その時からインスリン注射が始まりましたが、それ以外はそれまで通りに、普通に生活していました。通院していた病院がとても協力的で、学生のうちは入院するのは春休みだけになるように配慮してくれました。
就職してからも入院していたのですが、病院で朝5時にお弁当箱を出すと、栄養士さんが治療食を詰めて持たせてくれました。職場では家から持ってきたような顔をしてそのお弁当を食べ、「お先に失礼します」と家に帰るような顔で挨拶をして、病院に帰っていました。病院と職場は徒歩で15分くらいのところにありました。なるべく普通の日常生活を送れるようにと、病院の先生や皆さんが配慮してくださったので、すごく恵まれていましたね。
その後、慢性腎不全が進行するにつれて生活に制約が増え、糖尿病の合併症が悪化してからは入院も多く、将来に不安を抱えていました。合併症に関して言えば、足が壊疽(えそ)したこともありました。原因を調べたところ、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染だということが分かりました。黄色ブドウ球菌は人の皮膚や鼻の粘膜に存在していて、健康で抵抗力がある人が感染しても発症することは少ないのですが、もともと別の疾患があって、感染に対する抵抗力が低下している人がかかると、重い感染症を引き起こしてしまうのです。確信はないのですが、壊疽が起こる前、透析病院でフットケアとして爪を切ってもらい、少し深爪になってしまったので、もしかしたらその爪切りから感染してしまったのかもしれません。

1型糖尿病を発症したころ

渡井先生
糖尿病患者さんの中には、足の潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)になる人が増えていますので、それらを予防するフットケアの重要性が取り上げられています。ただ、加藤さんの場合は、それが逆に感染の原因になってしまったのかもしれませんね。

畔柳さんは、いつごろから症状が出始めたのですか。

畔柳さん
大学を卒業したくらいからです。学生時代はヘルニアで腰痛がひどかったのですが、それ以外は全く何もなく、普通に過ごしていました。
22歳の時に体調の異変に気付きました。常に喉が乾いて、とにかく甘いジュースが飲みたくて1日10数本も飲んでいました。明らかに体がおかしいと思ったのですが、病気だと診断されるのが嫌で、なかなか病院に行けませんでした。いろいろな本を読んで、「これは糖尿病に間違いないな」と思っていたので、体重が10キロ減ったら病院に行こうと決めていたのですが、あっという間に10キロ減り、みるみるやつれていきました。病院に行くと1型糖尿病と診断され、インスリン注射が始まりました。

合併症との闘い

糖尿病の合併症も大変だったとお聞きしましたが。

畔柳さん
一番大変だったのは目の合併症ですね。網膜症と緑内障で、5年間で5回の手術をしました。だんだん見えにくくなってきて、病院に行くと網膜症と診断されました。最初はレーザー治療とステロイドの注射でなんとか過ごしていたのですが、その後、目の前が真っ白な状態になってほとんど見えなくなり、最終的には何も見えなくなりました。そこで、網膜症の手術を両目同時に受け、だいぶ良くなったのですが、その後すぐ緑内障になりました。
緑内障も2回目の手術まではなかなかうまくいかず、3回目でやっとうまくいきました。それからは目に関しては特に治療はしていません。移植をしてからは、すごくよく見えるようになりました。

先生、1型糖尿病の患者さんの場合、移植をすると目の症状も良くなるのでしょうか。

鳴海 俊治先生

鳴海先生
良くなるというのは珍しいかもしれません。移植前と変わらないという方がほとんどです。人によっては悪くなる方もいます。そのため、移植前にきちんと治療しておくということが重要です。幸い当院の患者さんでは、移植後に目が悪くなった方はいませんね。畔柳さんの場合は、それまでの治療がよかったのだと思われます。

渡井先生
移植前に網膜症の治療ができていないと、移植直後の血糖値が不安定な時期に、網膜症が悪化してしまう方もいます。以前は、膵臓移植の適応に「網膜症が安定している」ということが入っており、現在も移植の適応判断申請書には網膜症の評価を記載する必要があります。ただ、網膜症の安定だけを優先すると、すぐに移植をしなければならない患者さんの移植ができなくなってしまう場合もあるので、そのような場合は、網膜症悪化のリスクもあるということをお話しした上で手術を行っています。

加藤さん
視力に関しては、私は今でも、アナログテレビのような粗い画像を見ている感じです。「人がいる」というのは分かるのですが、細かい部分までは見えないので、遠くから手を振ってもらっても誰なのかが分かりません。
移植の2~3カ月前に白内障の手術をして少し見えるようになったのですが、そこからすぐに移植手術を受けたので、視力もその時点から変わっていません。