新たな挑戦

移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。

加藤さん
移植後、図書館の障害者雇用枠に応募し、仕事に就くことができました。書庫の整理や受付など、楽しそうだし、体への負担も少ないだろうと思って応募したのですが、なぜか図書館の入っている施設のカフェに配属になりまして、今はカフェの店員をやっております。「カトちゃんは絶対接客向き!カフェ以外考えられんわ!」と上司に言われました。声が大きくにぎやかしい私なので、配属はやっぱりカフェでしたね(笑)。

移植の体験談の講演活動もされているとお聞きしましたが。

渡井先生
加藤さんは引っ張りだこですよね。いろいろなところで講演をされていて、学校でもされていますね。

加藤さん
講演を頼んでくださる方が言うには、体験談となると涙、涙の暗い話が多い中で、「加藤さんみたいに、あっけらかんと話す人は珍しい」とのことで、誘っていただいています。元気に楽しくお話させていただいています(笑)

加藤さん

畔柳さんは、移植後新たに始めたことやこれから挑戦したいことはありますか。

畔柳さん

畔柳さん
私は移植後に転職活動をして無事に転職先が決まりました。3月から新たな職場で働きますので、仕事に打ち込んでいきたいですね。転職してお給料も大幅にアップしました(笑)。
結婚もしたいですね(笑)。それと、患者会を通じてたくさんの仲間に会いたいと思い、交流会などもいろいろ手広くやっています。あとは、移植をして元気になった姿を通して、移植医療について一人でも多くの人に知ってもらいたいです。

お二人はスポーツや旅行なども楽しんでいらっしゃいますか。

畔柳さん
私は毎日1時間歩いています。いずれ富士山に登りたいと思っています。今までは旅行に行けなかったので、いろいろなところに行きたいです。

加藤さん
移植後はとても元気になったので、もちろん旅行にも行っています。ハワイに行ったときにはどうしてもやりたかったスカイダイビングにも挑戦したのですが、帰国後、先生にその話をしたところ、失笑され、「加藤さん、自分のことは妊婦だと思ってください」と、呆れさせてしまいました。それまでは移植後は何でもできると思っていたのですが、今は反省して危険なスポーツなどは控えています。

共に輝ける人生を

ドナーの方への思いをお聞かせください。

加藤さん
移植後、初めは、ドナーの方がご不幸にも亡くなられたことで、私が元気になれたことに対しての申し訳なさのようなものを感じていました。お見舞いに来てくれた皆から、「本当に良かったね」と言われたのですが、それは私にとっては良かったかもしれないけど、どこかで大事な家族を亡くして悲しんでいる方がいるので、「本当に良かった」と素直には言えなかったのです。しかし、しばらくたってから友人に、「あなたが移植をしなくてもその人は亡くなったのよ。あなたが移植をしたいから亡くなったわけじゃない。だから、臓器を頂いたことによって、その人のご家族が少しでも救われるのなら、あなたがそんなに引け目を感じることはないと思う。」と言ってくれました。その言葉をきっかけに、素直にドナーの方とのご縁に感謝することができるようになりました。
おなかの中の膵臓と腎臓には、我が子を身ごもった感覚にも似た愛情を感じています。妊娠していた時に、子どもが無事に生まれてくるかどうか分からなかったので、「ちゃんと元気に生まれてきてね」と語りかけていたように、今も、夜寝るときに、おなかをさすりながら膵臓と腎臓に毎日挨拶をするのです。「今日も1日ありがとね、明日も頑張ろうね、おやすみ」と。

畔柳さん
ドナーの方、そしてそのご家族には、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。おなかに手を当てるととても温かく、共に生きていることが本当にうれしく誇りに思っています。1日でも長く、共に輝ける人生を送っていこうと思っています。

先生にお伝えしたいことはありますか。

加藤さん
長年の闘病生活の中では、お医者さんから叱られることも多かったので、渡井先生から、「1型糖尿病の方は(発病に関して)なんの落ち度も無いから、移植をして元気になってもらいたい」と言ってもらった時には、感動と癒しを頂きました。以来、先生を深く信頼し、いつも感謝しています。

畔柳さん
何でも相談することができ、とても信頼できる鳴海先生が主治医で本当に良かったです。これからも長くお世話になりますがよろしくお願いします。

移植を待っている方へのメッセージ

現在、膵腎同時移植を待っている方へメッセージをお願いします。

加藤さん
同じ病気でも十人十色で、全てが一緒ではないかもしれませんが、一体験者である私の姿が何らかの参考になればいいなと思います。そして、私の話を参考に希望を持っていただけたら、なおいいなと思っています。

畔柳さん
「明日手術するかもしれないし、10年後もできないかもしれない」という不安な毎日だと思いますが、『冬は必ず春となる』の言葉のとおり、どんなにつらく厳しい冬でも、必ず暖かい春がやってきます。無駄なことなど何一つなく貴重な財産であり、一日一日、桜咲く希望の春が近づいていることを強く信じていただきたいと思います。
私自身はおかげさまで、体調もとてもよく、移植をして本当に良かったと日々感謝する毎日です。私の恩師は、「労苦と使命の中にのみ人生の価値(たから)は生まれる」と言われました。血液透析も腹膜透析も移植も、どれも間違いではなくそれぞれの使命の道だと思います。自分にとって何が一番良い方法かを決め、価値ある人生を歩むために、移植のこともいろいろと知っていただき、選択肢の1つとして考えていただければと思います。

鳴海先生からも膵腎同時移植を待っている方にメッセージをお願いします。

鳴海先生
かつて私が米国の病院にいた時に診ていた膵腎同時移植の患者さんは、非常に状態が悪い方が多く、合併症によって失明してしまう方や、手足を切断しなければならない方なども多くいらっしゃいました。それに比べ、日本は透析治療や内科の治療の質がとても高く、移植後元気に日常生活を送ることができる方が非常に多いです。今日のお二人の姿を見れば、膵腎同時移植というのは本当にすごいと感じていただけると思います。将来的にはiPS細胞などを利用した治療も可能になってくると思われますが、それまでの間は、私たちは膵腎同時移植をどんどん成功させていかなくてはいけないですし、社会全体として、意思表示をしていただける方が増えるような土壌作りをしていかなければならないと思っています。
移植を受けようか迷っている方や検討されている方は、まずは相談に来ていただければと思います。

最後に渡井先生からもメッセージをお願いします。

渡井先生
腎不全や糖尿病で苦しんでいらっしゃる患者さんの中には、移植に関する情報を知らない方がとても多いので、それをどのように発信していったらいいかということを、いろいろと試行錯誤しています。
移植の情報に触れ興味を持ったのであれば、まずはご連絡をいただければと思います。具体的な移植の希望がなかったとしても、時間がある限り説明をさせていただきます。当院にはコーディネーターが2人いますし、話をさせていただく窓口はいつも開いていますので、まずは足を運んでいただければと思っています。

4人