心の重荷が取れた日

寺西先生にお伝えしたいことはありますか。

お母様
寺西先生には心から感謝しています。脳死移植について、誹謗中傷の言葉をインターネットで見つけ読んでしまってから、私の心の中は押しつぶされそうになりました。手術後約1カ月半、「本当に腎臓を頂いてよかったのだろうか」と悩み続けました。頂く方は、もちろんとてもうれしいことなのですが、提供される方のことを思うと、いろいろと悩んでしまいました。誰にも相談できず、相手の方に問い合わせるわけにもいかず、ずっとそれが心に引っかかっていて、せっかく移植を受けた娘にもしばらく笑うことができませんでした。そんな時、小児科の看護師さんに、「いろいろと読んでしまって、つらいです」と話をしたところ、「寺西先生に伝えておきますね」と言われました。
すると、寺西先生から、「提供者のご家族から『ありがとうございました』と逆にお礼を言われたのですよ。本来ならもらう側がお礼を言わなければいけないのに。だからそういうことは気にしなくていいのですよ。」と言ってもらえ、その言葉を聞いて心の重荷が取れ、「本当にありがたいな」と思いました。やっと心から素直に移植を喜ぶことができました。
寺西先生は、娘だけではなく、私たち家族も救ってくれたのです。


寺西先生
ドナーの方のご家族が決意されたのももちろん強制ではありませんし、ご家族が承諾されたので提供手術が行われました。提供されたご家族には、臓器提供手術直後に私から、これから移植を受ける患者さんに替わってお礼に伺うことが多いのですが、その時にご家族から逆に「ありがとう」という言葉をいただきました。私自身、これまであまりそういう経験がなかったのですが、世の中の役に立ってほしいというご家族の強い思いで提供を決められたそうです。結果として、腎臓が提供され、それが移植を待っていたお子さん(茅乃ちゃん)につながったというので非常に感謝されました。


お母様
寺西先生にこのお話をいただいてからは、自信をもって、「茅乃は移植をして元気になりました」と誰にでも言えるようになりました。もし、同じような境遇で悩まれている方がいらっしゃれば、是非この話を聞かせてあげたいです。


寺西先生
私としては、正直に事実を言ったまでで、そこまで思い詰めていらっしゃったとは知らなかったです。


お母様
また、移植後は通常は移植病棟に移るのですが、寺西先生は人見知りの娘のために小児科で受け入れてもらえるよう、ICUにいた3日間の間に小児科の看護師の方々に何度も講習を開いてくださり、術後、無事小児科での入院ができ、娘も安心して治療を受けることができました。そのことでも大変お世話になりました。本当にありがとうございました。


寺西先生
通常、小児の移植患者さんは、ICUの後は泌尿器科の病棟の個室で2週間程度過ごし、退院準備で小児科病棟に行くのですが、茅乃ちゃんの場合は、ICUから直接小児科病棟に行くことにしましたね。


お母様
寺西先生が小児科のスタッフの方々に講習をしてくださったおかげで、2カ月後に無事退院できることになりました。ただ、移植後の患者さんが直接小児科に来ることはこれまで無かったそうで、皆さん初めてなこともありいろいろと大変でした。そういうこともあったので、茅乃が入院中にお世話になったお医者さん、看護師さんからクラークさんまで約40人全員にお手紙を書きました。そのためか、退院する時には、全看護師さんがナースステーションの前に集合してくれて、皆さんで見送ってくれました。

大切な腎臓のために

移植後はどのくらいの頻度で通院されていますか。

お母様
今は1カ月に1回です。


寺西先生
移植後落ち着いて、腎生検でも異常が見られなければ、2カ月に1回の通院になる人もいます。あとは、今後、茅乃ちゃんは思春期をどう乗り切るかが大切になってきますね。お薬だけは何があってもちゃんと飲むことを約束してほしいですね。


お母様
そうですね。


寺西先生
お子さんで怖いのは、思春期に薬を飲まなくなることです。薬を飲むのを止めてしまったという子がたまにいますので。

そういう子はすぐに腎臓が駄目になってしまうのでしょうか。

寺西先生
それがすぐではないのです。ただ、確実に、真綿で首を締められるように、じわじわと腎機能が悪化していきます。

メッセージ

メッセージ

最後に、現在、移植を検討しているお子様をお持ちの方にメッセージをお願いします。

病勝

お母様
お子様が血液透析、腹膜透析をされ、毎日の心労が続いている方もいることと思います。娘は腹膜透析中に書き初めで「病勝」と書きました。この病気に必ず勝つという意味です。そして、学校で書いたこの書き初めを自宅に持ってきたところ、移植の連絡を受け、その結果移植を受けることができ、本当に病気に勝ちました。
季節は厳しく寒い冬が来ても、必ず暖かい春が来ます。移植ができれば暖かい春、未来が来ます。子どもが子どもらしく生活できます。必ずその日は来ます。その日を信じて、主治医や看護師の方々を信じてください。
一日も早くその日が来ることを祈っています。

寺西先生からもお願いします。

寺西先生と茅乃ちゃん

寺西先生
ほんの10年前まで、茅乃ちゃんのような腎臓病のお子さんは神奈川県では腎移植を受けることができず、多摩川を超えて東京の病院に行く必要がありました。人口が多く、これだけたくさん立派な病院がある神奈川県内に住んでいるにもかかわらず、腎臓病のお子さん達が神奈川県内で十分な医療を受けられないのはおかしいと思っていました。
移植医療、特に腎移植医療は地域医療であり、やはり近くの病院で診てあげる必要があると思っています。
私は腎移植だけではなく、腹膜透析の管を入れる手術や先天性の腎・尿路の異常に対する手術などもしますので、小児科の先生方と連携しながら、当院を、腎臓が悪いお子さんたちをトータルで治していける、神奈川の中心的な病院にしていきたいと思っています。それが結果として、神奈川県や横浜市内で困っているお子さんたちの役に立つことだと思っています。

お母様
最後に、今回、このような機会を与えてくださり、ありがとうございます。私たちは、娘が移植を受けた日を2回目の誕生日と呼んでいます。新しい命を頂いた日だからです。今、娘が毎日楽しくはつらつと生活できるのは、ドナーとそのご家族はもちろん、小児腎グループの先生方、移植グループの先生方、小児科の看護師の方々のおかげです。毎日がつらく苦しい入院生活を乗り越えられたのは、今回の娘の移植治療に携わってくれた皆さんのおかげです。心から感謝しています。