「移植医療」を知ってもらうために
腎不全の治療選択として「腎移植」という治療があることを多くの方に知っていただくには、どのようなことが必要だと思われますか。
棚橋さん:
私たちは、夫婦間移植の先駆けになったと思うのですが、現在は、「親子とか兄弟間であれば、移植はできる」と思っている方は、以前よりは多いのではないかと思います。ただし、「夫婦間でも移植ができる」という情報が、どうも少ないように思います。より多くの方に「移植」という治療選択があることを知っていただくためには、今私たちがお話ししたような内容を、患者さんのご家族の方にもぜひ読んでもらいたいと思います。患者さんが分かっていても、自分の親やご主人、奥さんなどに、「何とか協力してくれ」とは言えないものです。家族の方から、「こういうことができるのか、それなら私がドナーになろう」と言い出せるように、患者の周りが理解してくれる場を持っておく必要があると思います。
後藤先生:
先日、腎臓内科の先生と話していて、「本当は、腎臓内科の初回外来時に家族も呼んで、腎臓の説明から話を進めて『移植』の話までできるといいよね」という話になり、「なるほど」と思いました。移植をしなければならない状況になってからではなく、もっと手前のところで話をするのがいいのではないかと思います。そのような内科医がどんどん増えてくるといいですね。
そして、移植の話ができる若い腎臓内科医を育てるのも非常に大事ですね。それが私の今の仕事だと思っています。
奥様:
若い20~30代の患者さんで、もう10年以上透析をしていても、「家族に移植のことなど言えない」という人もいるのです。
「ドナーの会で出している『ドナーになろうと思うあなたへ』という本をご両親が読んでくださり、移植を考えていただけるかもしれないですよ」と言うのですが、「そろそろ献腎移植の順番が来るのではないかと思っていますので」とおっしゃる方がいらっしゃいます。移植の情報が行き渡っていない、生体腎移植という選択肢があることをご存じないゆえんでしょう。生体腎移植の情報をもっともっと知っていただきたいです。先生がおっしゃるように、ご家族で一緒に相談に来られて、治療方針を決めていくのがいいですよね。
後藤先生:
やはり治療の途中からは難しいですから、先ほども言ったように、最初のところからですよね。「腎不全とはこんな病気です」というお話をさせていただく時点では、おそらく、ご家族皆さんが揃うと思うのです。ご家族が腎不全の治療に関する知識を持っていただければ、「俺がなんとかしよう」という人が出てくると思うのです。
今井コーディネーター:
現在行っている透析導入施設への腎移植の啓発活動に加え、慢性腎不全患者さんや医療従事者を含め、多くの方に移植の正確な情報を提供していくことだと思います。移植の相談にいらっしゃった方には、十分に移植の情報を得て頂き、家族で移植のことを考えてもらえるような働きかけをしていきたいと思います。また、看護学生には病院実習の際に最新の移植医療について説明しています。
名古屋第二赤十字病院では、ドナーのフォローはどのように行われているのですか。
後藤先生:
当院では、2003年7月以降、「ドナー外来」という外来を始めました。これまで、ドナーは腎摘後のフォローをきちんとされていなかったので、すごく気になったのです。「このドナーは術後何年目?」と聞いても、誰もパッとは答えられず、フォローの仕方もバラバラで、自発的に病院に来られた方を診ているという感じでした。これでは駄目だと思い、フォローの漏れが無いようにしたいと考えて始めました。実際に、外来の日にドナーの方々を呼んでみると、結構多くの人が来なかったりして、その方々の中には、腎機能が悪くなっている方もいらっしゃいました。
ですから、来ない人には電話して、こちらから追いかけるということをしています。移植前には、「移植後もきちんと病院に来ない人は、ドナー手術を受けることに責任が持てないから、やめようね」という話までしています。
フォローには、私だけでなくコーディネーターも入ったりするのですが、診察時に、「絶対顔を見せにきてください」と言って、1年後の予約を全部取ってしまいます。その予約を取ることによって、「翌年の外来にも必ず来よう」ということになります。
私からお伝えしたいことは2つあります。1つは、親子間でも兄弟間でも夫婦間でも、「ドナーは一生フォローしたいので、きちんと病院に来てほしい」ということ。もう1つは、「私たちが行っている夫婦間移植のゴールは、10年後、20年後に2人とも健康でいて、そんな先であっても移植をやってよかったと言ってもらえること」です。
患者さんの多くは、移植のゴールは、手術がうまくいって尿が出る事だと思っているかもしれないのですが、私たちはそうではありません。ドナーは一番大切にしなくてはいけない存在ですから、厳しいと思われることも、しっかりとお伝えしているのです。
感謝とメッセージ
棚橋さんから、ドナーである奥様へお伝えしたいことはありますか。
棚橋さん:
「HLAの検査を受けてみましょうよ」という妻の言葉から、私の移植は始まりました。ドナーとなった妻には、ただ「感謝」のひと言のみです。また、HLAが6分の5の適合性だったのは奇跡というよりも、神の恩寵だったのではないかと、今も考えています。
現在、移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージをお願いします。
棚橋さん:
現在では、移植手術は安全かつ安心のできる医療で、末期腎不全の根治療法となっています。保存療法、透析療法の苦痛から解放され、日常生活、食事、仕事など、いろいろな面が自由となります。人生が明るくなり、リセットされます。
また、ドナーについても、一般の方と比べても生命予後には差がないといわれています。名古屋第二赤十字病院では、術後のケアも万全に行われておりますので、心配はありません。移植の情報をいろいろ検索して、より充実した医療機関において移植を受けることを積極的にお勧めします。
奥様:
移植医療は、現在の状況よりも良くなるためにするものです。どうぞ怖がらないで、不安がらないで医療を信じてお進みください。そのためには、あなた自身が守らねばならないこと、するべきことをしっかり守って自己管理に努めて下さい。
大切な人が透析から解放されること、それがどんなに素晴らしいことか、明るい明日への1歩であるか、あなた自身がその手でドアを押し、進んで下さい。予期せぬ大変なことにも出くわすかもしれませんが、「透析によってつながれている日々の命」や「透析前の腎不全のつらさ」を思い起こして下さい。また、「ドナーの会」「ドナーの広場」にも、ぜひおいでください。多くの仲間の声をご自身の耳でお聞きいただき、あなた自身でお決めいただければと思います。
私がドナーになる決心をしたのは、それまでの結婚生活への感謝です。腎臓病という大変な病を持ちつつ32年間幸せに暮らさせてもらいました。主人は親類縁者にも、周りの人々にもいつも気遣いしつつ暮らしてまいりました。私一人が健康でいるのが申し訳ない気すらしていました。「二人でこの先普通の日々の中で、年老いていきたい」その一念でした。
渡井先生からもメッセージをお願いします。
渡井先生:
当院では移植医療の専門家が集まり、短期的にも長期的にも移植をうまくいかせるために、全ての時間を費やしておりますので、高いレベルで移植が行えると自負しています。
移植を検討されていたり迷っている方は、一度当院にいらしてください。お待ちしています。