授かった宝物
献腎移植後、一番良かったこと、うれしかったことはどのようなことでしたか。
野村さん:
透析に拘束されることなく、時間を自由に使えるようになったことがうれしかったですね。また、毎日尿が出る、普通に歩くことができる、食べることができる、飲むことができるなど、とにかく普通に生活できるようになったことがうれしかったです。また、結婚、出産ができたことも大きな喜びでした。
結婚、出産をされたのはいつごろですか。
野村さん:
移植から8年後に結婚し、その3年後に出産しました。1回目の移植の4年後くらいに、以前通院していた病院が閉院となったので、奈良医科大学附属病院に転院し、出産もこちらの病院でお世話になりました。
移植をすれば、妊娠、出産が可能になるという話は、以前から知っていたのでしょうか。
野村さん:
知り合いの方で、移植をして子どもを産んだ方がいたので、その方からお話を聞いていました。結婚する前からその方のお話を聞いていましたので、希望を持つことができましたね。
吉田先生:
当院では、女性で3人、男性も2人以上が、移植後にお子さんを授かっています。
妊娠、出産をお考えになった際には、先生に相談されたのですか。
野村さん:
はい、相談しました。当時服用していた薬を中止したり、量の調整をしていただきました。
吉田先生:
妊娠、出産を予定されている患者さんの場合、免疫抑制剤の変更や、服用量の調整が必要ですので、野村さんの場合もそのような対応をしたと思います。
妊娠中、特に気を付けていたことはありますか。
野村さん:
食事には気を付けていましたね。
妹からの温かい申し出
その後、2回目の移植手術までは、どのような生活でしたか。
野村さん:
1回目の移植後は何度か入院もしましたが、仕事や結婚、出産もして、普通に生活をしていました。移植後20年くらいからクレアチニン値が上昇し始めたため、シャントを作りましたが、透析導入前に、2回目の移植手術(生体腎移植)をすることになりました。
2回目の移植(生体腎移植)を受けようと思ったきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。
野村さん:
私の妹(ドナー)が勧めてくれたからです。実は、透析を受けていた高校生のころの私は、随分と荒れていました(笑)。水分や食事の制限も何もせず、やりたいようにやっていました。透析をして帰ってきても、体がかなりきつかったので、「もういいや」というような投げやりな態度で、家族につらく当たってしまっていました。妹は、そのような私の様子を約4年間ずっと見ていましたから、私がまた透析導入したら、「今度は一番近くにいる子どもに当たるのではないか」という心配があったようです。まだ子どもも小さく、そのような状況になったらかわいそうだし、「子どものためにも、私の腎臓を使って」と、善意によって申し出をしてくれました。
妹さんのご主人は、妹さんがドナーになることに対してはご理解があったのでしょうか。
野村さん:
とても理解がありました。「もしも自分の兄弟がそういう状況になったら、自分も同じことをすると思うから、思うようにすればいいよ」と、妹に言ってくれていたようです。
初めて妹さんから「ドナーになる」との申し出があった時には、どのようなお話をされたのですか。
野村さん:
妹から、「私の腎臓をあげる」と言われた時は、まだ妹の2人の子どもも小さく、妹の体に傷を付けてしまうことにもなるので、「手術はしない」と言って断りました。手術室に入る直前になっても、「やめるなら、今だよ」というようなことを、ずっと言っていましたね。
ご家族の皆さんで、野村さんの移植手術についての相談をされたのでしょうか。
野村さん:
具体的な内容は聞いていないのですが、弟夫婦と妹夫婦は、少し話をしたようです。
吉田先生:
ドナー候補に関しては、まず妹さんがHLA※検査を受けて、その結果、妹さんがドナーになることが決まったため、弟さんは検査を受けませんでした。
※HLA(Human Leukocyte Antigen):日本語では、「ヒト白血球抗原」といい、両親から遺伝的に受け継がれる白血球の型のこと。HLAは一対となっており、両親からその半分ずつを受け継ぐため、子供同士では4つの組み合わせがあり、兄弟姉妹間では4分の1の確率でHLA型がすべて一致する。しかし、他人同士でHLAの型がすべて一致する確率は、数百人から数万人に1人となり、極めて低い。
2回目の移植手術というのは、1回目の手術と比べて難しいのでしょうか。
吉田先生:
そのようなことはありません。ただ移植する場所が違います。1回目はおなかの右側に移植しますが、2回目は左側で、骨盤の深いところに移植します。2回目までは難しくありませんが、3回目となると難しいですね。
3回目の場合は、移植腎を摘出するのですか。
吉田先生:
特に問題がない限り、基本的には摘出しません。当院でも3回目の移植をされた方がいらっしゃいましたが、機能しなくなった腎臓はすでに萎縮していますので、摘出しなくても、新たに移植するスペースに関しては問題ありません。
そして、移植手術の日を迎えたわけですが、手術前に、妹さんとは何かお話をされましたか。
野村さん:
妹とはあまり話をしないので、移植に関しても、「私のあげるわ」「うん」みたいな感じの会話だけでした(笑)。私と妹は、1歳違いで年齢も近いので、学生時代は喧嘩もたくさんしていて、表面上は仲が悪かったこともありました。でも、昔から私のことを一番心配してくれる、本当にいい妹なのです。
移植手術を終えた時の気持ちは覚えていらっしゃいますか。
野村さん:
とにかく妹のことが心配でした。
手術後の経過はどうでしたか。
野村さん:
とても順調で、拒絶反応や感染症なども起こりませんでした。
吉田先生:
やはり、移植された腎臓と仲が良いのでしょうね(笑)。HLA検査もフルマッチだったのですよ。