名古屋第二赤十字病院レシピエントインタビュー第2回目は、約6年前にお母様がドナーとなり、生体腎移植手術を受けられた高橋絵里さん(仮名)です。
高橋さんは移植後、元気な男の子を出産されました。腎不全と診断されてから移植手術を受けるまで、そして移植後、さまざまな葛藤がありながらも出産にチャレンジした時のお話などを、先生のお話も交えお聞きすることができました。
高橋さんが移植を受けるまでの経緯
- 2007年4月(26歳) 腹痛で受診し腎不全と診断される 保存療法開始
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2008年9月(27歳) 生体腎移植手術
- 2012年(31歳) 第1子出産
突然の入院
まずは病状が出始める前の生活について教えてください。
高橋さん:
腎不全と分かるまでは、ほとんど病気をすることもなく普通に暮らしていました。入院はもちろん、点滴をしたこともありませんでした。ところが、26歳の時に腹痛で病院に行くと、検査の結果、腎臓がかなり悪くなっており、自己免疫疾患による血管炎を発症していたことが分かりました。当時は結婚して愛知に住んでいたのですが、主人は仕事で週末ぐらいしか帰って来られなかったことと、入院は2~3カ月かかると言われたことから、実家の近くの病院に入院しました。
その後、炎症は治まったのですが、医師からは、「腎臓は一度悪くなるともう良くならないので、あと1年もつかもたないかも分からない。まだ若いし、子どもを産むことを考えるのであれば移植した方がいい。」と言われ、突然のことで本当に驚き、ショックを受けました。それからしばらくは、服用していたステロイドの副作用でムーンフェイスになった顔を見られるのが嫌で友達に会えないなど、精神的にきつい時期が続きました。
名古屋第二赤十字病院には、移植を検討するために来られたのですか。
高橋さん:
そうです。地元の病院で「移植した方がいい」と言われたため、名古屋第二赤十字病院へ伺いました。ただ、当時は家族も移植について何も知らなかったので、移植というのはすごく重たい印象で、正直なところ、「そこまではしたくないな」と思っていたのですが、本当に周りから勧められることが多かったので、移植を考えてみることにしました。
先生からの情報以外にも、移植の情報を得る機会はありましたか。
高橋さん:
地元の病院に入院していた時に、たまたま同じ病室に移植をして子どもを産んだ方がいて、「移植をすると子どもが産めるのだ」ということを知りました。私は最初からかなり移植の情報に触れる機会があったので、ラッキーだったと思います。
前向きになれた瞬間
名古屋第二赤十字病院では、最初は腎臓内科に通院されていたのですか。
高橋さん:
はい。初めは腎臓内科で診察を受けていたのですが、そろそろ移植外科の先生に話を聞いた方がいいと言われ、打田先生(現 愛知医科大学病院)から移植の説明をお聞きしました。
先生とのお話の中で、「移植手術をするのであれば、手術の枠がなくなってしまうから、予約を取っておきましょう」と言われて、「え、もう手術?!」と少し焦ったのですが、「考える時間は少ない方がいいかな」と思い予約をしました。そのころはあまり深く考えず、流れに任せていましたね。
打田先生と話すまでは結構ネガティブで、とてつもなく大変なことが自分の身に起きていると思っていたのですが、先生は移植医療について大変明るくお話されたので、とても安心しました。それまでは気持ちが沈んで友達にも会いたくないような暗い状態だったのですが、先生が「手術自体は簡単です」と気軽な感じで言ってくださったことで、気持ちが180度変わり、とても前向きになれました。
一般的に、移植を検討していて来院される患者さんに対しては、どのようなお話をされるのですか。
後藤先生:
まず面談前にビデオを見てもらい、その後コーディネーターから、家族関係などいろいろな話を聞いてもらいます。だいたい、1組1時間くらいかけて話をしますね。その後、紹介状の内容とコーディネーターの情報を把握してから、今度は医師が1時間くらい話をします。
「今日は移植の説明を聞きに来ただけで、移植するかどうかはまだ全然決めていません」と言いつつも、話を聞くうちに
グッと入ってくる人もいますし、「移植をしますか」と聞くと、「いや、ちょっと」と答える人もいます。話の途中でもすごく変わりますね。「ぜひ移植したい」と言ってきても、夫婦間などで少しでも不安が見えるような場合にはすぐ止めて、「移植しなくてもいいですし、移植するのであればいつでも待っていますから、考えてください」と言って、必ず一度帰っていただきます。
移植の話を聞きに来られる方はとても多く、さまざまなレシピエント、ドナーの方がいますので、最終的に移植手術をするかどうかは、私だけが判断するのではなく、コーディネーターなどいろいろな人の意見を参考にします。チーム医療ですから、いろいろな人の意見を聞いて、最終的にはカンファレンスで決めます。
また、移植に向けて、当院では1週間の検査入院を必ず行います。検査入院の目的の1つは、病棟のスタッフに患者さんに慣れてもらい、手術時の対策を立てることであり、もう1つは、患者さんに入院時にどのような医療スタッフが待っているのかを知ってもらうことです。
移植コーディネーターの役割も大きいと思うのですが、具体的にはどのようなお仕事をされるのですか。
野畑コーディネーター:
移植前の患者さんへのファーストタッチとして、レピシエントが先生のところに来る前に、今までの治療歴、自己管理の問題や家庭環境をお聞きし、本当に移植する意思があって来ているのか、ただ話を聞きたいだけなのかといったことを確認しています。移植したいと言っていても、ドナーとレシピエントの思いがそれぞれ食い違っていることもあります。家族はどう思っているのか、ということも確認します。あとは、移植の流れを説明し、診察につなげられるようにします。今後の治療にも生かせるように、どのようなキャラクターの方かということも何となくつかんで、先生にお伝えします。また、移植前に問題が発生した場合の対応もしています。
後藤先生はいつから高橋さんを担当されたのでしょうか。
後藤先生:
高橋さんの検査入院の時に引き継ぎ、検査やワクチン接種の準備などをしました。
一般的に、移植前にはどのようなワクチンを接種しておく必要があるのでしょうか。
後藤先生:
接種しなければならないワクチンはたくさんあります。当院では移植前のワクチン接種は、抗体の有無を全部調べ、しっかりと行っています。肺炎球菌のワクチンは全員に打っていますし、麻疹(はしか)やおたふくなどのワクチンも打っています。水痘は、ほとんどの日本人はかかっていますが、抗体がない人には打っています。B型肝炎の予防は大切ですので、手術までに間に合えばワクチンを接種しますね。
高橋さんは妊娠希望があったのですが、風疹の抗体がありませんでした。しかし、ステロイドを内服していたため、ワクチン接種できませんでした。仕方がないので、「かからないように気を付けてくださいね」という話をしました。妊娠希望がある方の場合は、私たちも「なんとか出産へ」という気持ちでさまざまな準備をします。
辻田先生は病棟を担当されているとのことですが、検査入院中は、どのようなところをポイントに患者さんを診ていらっしゃいますか。
辻田先生:
検査結果はもちろんですが、人間関係や治療歴などをより重点的に確認しています。ごくまれに移植しない方がいい患者さんもいますし、まだまだ立派な腎臓を持っている患者さんの場合には、すぐに移植する必要があるのか、と考える場合もありますね。