家族の愛情

ドナーになられる方はどのように決められたのですか。

高橋さん
ドナー候補には、母や弟、夫がいて、本当にありがたいことに、みんなが、「あげるよ」と言ってくれたのですが、母から貰うことになりました。母が、「まだみんな若いし、まずは私の腎臓をあげるけど、この先ずっとこの腎臓でいけるかどうかは分からないから、駄目になったらその後はまた誰かにもらってね」と言ってくれて決まりました。

その後、移植まではどのように進んでいきましたか。

高橋さん
母が、「私がドナーになるわよ」と言ってくれてからはトントン拍子で進みました。私の場合は、透析に入る前に移植したので、手術まで、腎臓の状況を見ながらしっかりと準備ができたのがよかったと思います。移植直前にはクレアチニン値が7mg/dlぐらいになるまで腎不全が進んでいました。

妊娠を希望される方の場合は、透析導入前に移植をするケースも多いのでしょうか。

後藤先生

後藤先生
どの時期に移植を行うかは原疾患や年齢、心臓の病気の有無といった因子でだいたい決まってきますが、妊娠を希望している人は、そこに(妊娠可能な)年齢という別の因子が加わります。
子どもが欲しいと望んでいる人が30歳ぐらいで相談に来られて、クレアチニン値からするともう少し腎臓がもつという場合は結構ありますが、そこで1年待ってしまうと今度は卵子の年齢の問題があって、妊娠しなくなってしまう可能性も出てくるのです。ですから、患者さんが妊娠を一番に考えるなら、早期に移植してあげたいと考えます。例えばクレアチニン値がまだ4mg/dlとか5mg/dlでも、次のステージを考えて早めに移植することはあります。
移植後1年経過して、移植腎機能が良好で蛋白尿を認めなければ、妊娠可能な状況になります。妊娠を希望する場合、免疫抑制剤や降圧剤などを変更しますが、薬の変更後2カ月くらいで問題がないのを確認して妊娠許可を出しています。つまり、今日移植した人は順調にいけば、1年2カ月後に妊娠しても大丈夫な状況になります。本来は不妊外来なども含めて診ていかないといけないと考えているのですが、まだまだそこまでの体制にはなっていないですね。

移植患者さんが妊娠を希望する場合には、どのような薬を変更するのですか。

後藤先生
服用している免疫抑制剤の種類によっては、中止するか、変更します。ほとんどの人は血圧が高く降圧剤を服用していますが、降圧剤やコレステロールの薬も軒並み使えなくなり変更をしなければならないので大変です。
また、肥満度が高い人は妊娠を希望されてもなかなか難しいですね。
当院では移植後の患者さんから60人くらいの子どもが生まれていますが、実はその倍ぐらいは、妊娠を希望される段階で、「危ないのでやめましょう」と断っています。患者さんは非常にショックを受けられますが、患者さんご自身の体のことを考えると仕方がありません。

妊娠希望を断るケースでは、どのような理由が多いのでしょうか。

後藤先生
血圧の管理ができていない人もいますし、腎機能の問題もありますね。
もっと早く相談に来て欲しかったと思うことはよくあります。「腎臓内科を受診していた時に将来的に妊娠が可能なように、もっといろいろな説明をしてくれていれば良かったのに」という人がとても多いです。

腎不全になった若い女性が妊娠を希望する場合、初めから医師が移植の話をしていれば、また状況も変わってくるのでしょうか。

後藤先生
確かに最近は、透析でも子どもを産むことはできます。しかしそれは、不意に子どもができてしまった人の出産を、フルサポートで何とか助けるという話です。透析中と腎移植後では妊孕(にんよう)※率も全然違いますので、妊娠を希望しているのであれば、移植を勧めたいですね。
※妊娠すること

透析中と腎移植後の妊孕率はどのくらい違うのですか。

後藤先生
妊孕率は、健常者と移植者では10倍、透析患者と移植者では4~5倍違います。妊娠しないと当然出産もできないので、妊娠を希望されている女性には、やはり最初に透析を勧めてはいけないと思いますね。今は健常者でも子どもができにくい時代ですから、透析と移植を比べたときの4~5倍の差は大きいです。その点を腎臓内科の先生からも特に若い人に伝えてもらいたいと思います。

元気を取り戻して

いよいよ移植手術が近づいたころ、お母様とは何か話をされましたか。

高橋さん
特別な話はしていませんが、「とにかく成功するといいね」と言っていました。

そして無事に移植手術を終えたわけですが、その時の心境を教えてください。

高橋さん
移植を受けた日の夜に目を覚ますと、今までの体のだるさが一気に抜け、びっくりするくらい清々しかったのを覚えています。とにかく手術が終わってほっとしたのと、母に感謝し、「もらった腎臓を大切にしなければ」と思いました。

移植後の体調はどうでしたか。

高橋さん
特に問題なく3週間で退院しました。また、ドナーの母も問題はありませんでした。退院後、風邪をひいたりしたことはありました。

辻田先生、名古屋第二赤十字病院の、移植手術の入院期間はどのくらいですか。

辻田先生

辻田先生
まず、移植前の検査入院は1週間です。手術の際の入院は、血液型が適合か不適合かによって異なりますが、不適合の場合は2週間前、適合の場合は1週間前に入院することになります。術後は通常3週間ぐらいが退院の目安です。
ドナーは術前が2日、術後が1週間で、基本的に全部で9日間ぐらい入院していただきます。